大動脈解離stanfordB型の侵襲的治療の適応
急性大動脈解離stanfordB型であっても急性期予後に危険が及ぶcomplicatedの状態であれば侵襲的治療が必要となる。
complicated急性B型解離の定義
①破裂・切迫破裂
②malperfusion(分枝潅流障害):腹部主要分枝、下肢、脊髄などへの灌流障害
③持続する痛み、再発する痛み
→疼痛が持続する=解離の進展あるいは解離した大動脈壁の強い伸展を意味し切迫破裂に準じた状態と考えられる
④コントロール不能の高血圧
→malperfusionに伴う上半身における血管抵抗の上昇あるいは腎動脈狭窄などに伴う腎血管性・以上高血圧症を意味する。
⑤大きな大動脈径、真性瘤と一致した部位の解離合併、急速拡大・進展する大動脈解離
→もともと真性瘤の存在下に解離が合併したもの、あるいは偽腔のストレッチに伴う急速拡大を意味し切迫破裂につながりうる。
malperfusion(臓器還流不全)の例
malperfusionがなぜ起こるのか:血管が乖離することで偽腔圧が上昇して真腔を狭小化したり、解離して遊離したフラップが枝の入口部位を閉鎖することによる。
①冠動脈のmalperfusion:冠動脈まで血管が裂けるとST上昇がたAMIや完全房室ブロックなどが出現する
②鎖骨下動脈のmalperfusion:鎖骨下動脈の血流低下があると、当然その先の上腕動脈への血流も低下して患側の血圧が低下する(→血圧の左右差が出現)
③頸動脈のmalperfusion:脳血流障害で意識障害、片麻痺などが出現しうる
④腎動脈のmalperfusion:造影CTにて左右差をもって造影されることでわかる。腎動脈に関しては両側が虚血になることは稀。片側腎動脈虚血の場合は臨床的に問題となることは少なく,全身管理を優先することが多い。
⑤腹腔動脈・上腸間膜動脈
上腸間膜動脈のmalperfusionは致命傷になりうる。腹部の疼痛を訴えている場合は要注意。
⑥肋間動脈のmalperfusion
稀ではあるが、脊髄虚血による麻痺症状出現を起こしうる。
⑦下肢動脈のmalperfusion
腸骨動脈の閉塞で下肢の疼痛や脱力が出現しうる。下肢の虚血以上に結腸領域の虚血が危惧される。
★破裂・切迫破裂のメカニズム
entryから偽腔内に入った血流あるいは中膜内出血の逃げ場がなく血液が偽腔内にとどまって圧力が高まった結果、外膜側に破綻した状態。このため破裂・切迫破裂症例では多くの場合re-entryが存在しない。それ故、偽腔に入り込む血流を止める=entryを閉鎖することが治療の原則である。
参照:急性大動脈瘤・大動脈解離ガイドライン2020