(症例)飲酒時のみに起こる激痛
飲酒後の疼痛を主訴に患者が来院されたら何を考えるか。
既往歴は特になく、健康。
飲酒は機会飲酒であるが、お酒を飲んでしばらくすると首のあたりがものすごく痛くなる。飲むたびに痛くなる。痛くて飲酒をやめてしまう。
最近体重がすこし落ちてきて微熱もある。心配になり来院。
このような現病歴の患者が来ると何を考えるか。
答え:ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫では飲酒時にリンパ節の疼痛が出現することが知られている。
珍しいが報告によってはホジキンリンパ腫の20%の患者で飲酒時の疼痛が出現するという。痛みはリンパ節領域で起こるため、頸部や胸部、腹部と患者によって様々である。
興味深いのは、飲酒後の疼痛がホジキンリンパ腫の初発症状であることがある点である。身体所見で明らかなリンパ節腫大があれば話が早いが、身体所見で目立たなければスルーされてしまう可能性がある。ホジキンリンパ腫の確定診断される数年前にすでに飲酒後の疼痛が出現している報告もある。
ホジキンリンパ腫におけるアルコールによる疼痛の病因は明らかになっていないが、エタノールへの曝露によるリンパ節被膜内の血管拡張が関係しているとも言われている。
ちなみに、ホジキンリンパ腫以外の悪性腫瘍でもアルコールによる疼痛の報告はあるが、ホジキンリンパ腫が割合としては最も多いと言われている。それでもホジキンリンパ腫患者の5%という程度であり稀ではある。
「飲酒後の疼痛」という不思議な主訴の患者が来たらぜひ適当に流さずに画像診断のご検討を。
*他の鑑別診断:カルチノイド症候群
カルチノイド腫瘍はセロトニンを産生し、それが皮膚紅潮や下痢、腹痛などの症状を引き起こす。アルコールはこれらの症状を誘発することがある(しかしホジキンリンパ腫で皮膚紅潮などの症状は出ないので区別はできるはずである)。CTを取ればもっと早いが…。
参考)
飲酒後の激しい胸痛で受診され、判明したホジキンリンパ腫の一例