つねぴーblog@内科専門医

アウトプットが趣味です。医学以外の事も投稿するやもしれません。名前は紆余曲折を経てつねぴーblogに戻りました

移転しました。

急速に低ナトリウム血症の補正をしてはいけない理由

●低ナトリウム血症をどれだけのスピードで補正してよいのか

 

Naが120mEq/Lかつ神経所見あり(頭痛、嘔吐、意識障害、痙攣など)の場合は緊急で補正を開始する必要がある。急性の低ナトリウム血症は比較的急速に補正しても良いが、慢性の低ナトリウム血症はゆっくり補正しなければならない。(橋中心脱髄症候群を防ぐため)急性低ナトリウム血症の場合は一日12mEq/Lまで、慢性の低ナトリウム血症は1日8mEq/L以内で補正。慢性なのか急性なのかわからない場合は慢性のものとして対応する。

 

●急激に低Naを補正すると…

Naを補正しすぎると浸透圧性脱髄症候群(Osmotic demyelination syndrome:ODS)が生じる。低ナトリウム血症の状態では浸透圧の関係で水が細胞外から細胞内に流入してしまいそうであるが、そんなかんたんに脳細胞の容積が増えてしまっては頭蓋骨に覆われた限られた環境ではすぐに圧力が上昇し脳ヘルニアになってしまう。そこで慢性的に低ナトリウム血症になった場合は生体防御反応として脳細胞の中の浸透圧物質が減少して細胞外から細胞内に水がシフトするのを防いでいる。細胞内の浸透圧物質というのはK+,Cl-などの電解質やosmolyteと呼ばれる有機浸透圧物質である。osmolyteとしてはソルビトールやグルタミンなどのアミノ酸などが知られていて、これら浸透圧物質の変化には数日の時間がかかるので人工的な急速なNa補正には追いつけないのである。

 急激に細胞外のナトリウム濃度が高くなると、浸透圧を調節しようと細胞内の水は急激に細胞外に出ていってしまうことになるので脳細胞の容積は小さくなる(=橋中心脱髄症候群、浸透圧性脱髄症候群という)。重症例では非不可逆的な神経障害が起こりであり、症状としては四肢麻痺や構音障害、嚥下障害、意識障害など生じうる。

 

浸透圧変化にもっとも敏感なのが橋であり、橋の正中に左右対称性に障害が起こることから橋中心脱髄症候群と呼ばれていたが、橋以外の場所にも脱髄病変が認められることがあるのでより広い概念で浸透圧性脱髄症候群とも呼ばれる。