球麻痺と偽性球麻痺の違い
球麻痺と偽性球麻痺の話
球麻痺の球とは延髄のことを指す。延髄を外側から見るとボールのように丸いのでこのような名前がついた。つまり球麻痺とは延髄麻痺を意味する言葉なのだが、臨床的には延髄の運動神経核(Ⅸ、Ⅹ、Ⅻ)の麻痺に限定して用いられる。症状としては嚥下障害、舌の運動障害、構音障害などが生じる。
Ⅸ、Ⅹ、Ⅻ神経核は大脳皮質前頭葉の運動野から伸びる皮質延髄路(上位ニューロン)によって支配されているので、延髄が直接障害されなくても上位ニューロンの障害によっても同じような症状が出る。
そこで…
・Ⅸ、Ⅹ、Ⅻ神経核が麻痺した場合→球麻痺
・その上位ニューロンが麻痺した場合→偽性球麻痺(実際には延髄は麻痺していないのに同じような症状が出るから「偽性」)
と呼ぶ。球麻痺の原因としてはワレンベルグ症候群(延髄外側症候群)などの脳血管障害が代表的。延髄の外側が障害されるため、球麻痺症状に加えて小脳失調、交代性感覚障害(顔は梗塞側と同側の感覚低下、体幹は梗塞の反対側の感覚低下)をきたす。
一方、偽性球麻痺の原因としては多発性脳梗塞や神経変性疾患などによって上位ニューロンが両側性に障害されて起こることが多い。
■球麻痺と偽性球麻痺の症状の違いを紹介
ポイントは球麻痺は下位運動ニューロンの障害であるのに対して、偽性球麻痺は上位ニューロンの障害という点。
・構音障害
球麻痺では…嗄声(声帯筋の麻痺)、鼻声(軟口蓋の閉鎖不全)
偽性球麻痺では…痙性麻痺(母音がわかりずらく引きずるような言語)
・嚥下障害
球麻痺、偽性球麻痺ともに見られる。球麻痺では嚥下が完全にできなくなることがあるが、偽性麻痺では症状は軽度なことが多い。もちろんどちらも誤嚥のリスクはつきものなので経管栄養が必要になることが多い。
・下顎反射
下顎反射は橋にある三叉神経の運動核に中枢がある。よって橋核以下で障害が起これば下顎反射は消失し(=球麻痺)、橋核の上で障害が起これば下顎反射は亢進する。
(偽性球麻痺の多くは橋より上部の障害でおこるため、下顎反射亢進を同時に認めることが多い)
・咽頭反射(嘔吐反射)
のどに舌圧子を突っ込んで「げー」となるかどうかを調べる。
球麻痺では反射減弱。偽性球麻痺では減弱から亢進まで様々。
・舌萎縮、筋繊維攣縮(筋肉のぴくつき)
球麻痺は下位ニューロンの障害なので、筋線維束攣縮が出現するが、偽性麻痺の場合は出現しない。また、舌の筋肉を直接支配している下位ニューロンの障害では著明な舌萎縮が見られる(=球麻痺)
・強迫泣き・強迫笑い
偽性球麻痺では表情筋を支配する顔面神経の上位ニューロン障害となるので、表情筋の緊張は亢進する。すると、ちょっとでも表情筋を動かした時に過度の持続的収縮が生じる。その収縮の起こり方によって泣き顔のように見えたり笑い顔のように見えたりするのが特徴。球麻痺ではこのような症状は見られない。