瞳孔不同の定義とその原因
◯瞳孔不同の定義
写真参照:Anisocoria : WTF
瞳孔不同とは、瞳孔の直径の差が0.4mm以上のものと定義されている。
0.5mm以上の左右差で器質的な脳障害を示唆、1.0mm以上の左右差で器質的な脳障害を強く示唆。
瞳孔径は神経支配である交感神経(散瞳機能)と副交感神経(縮瞳機能)のバランスで決まる。瞳孔不同の原因としては以下のものなど
◯一側性の散瞳:
・副交感神経の遮断(動眼神経麻痺)
・頭部外傷による出血による鉤ヘルニア
・虹彩疾患や薬物性瞳孔(点眼薬)
◯一側性の縮瞳
・交感神経の遮断(ホルネル症候群)
・単純性瞳孔不同
ただし偽陽性もありうるので注意。
その1)
健常人でも暗環境下で18%に0.4mm以上の瞳孔不同があると言われているので、小さな差だけでただちに異常とはならない。
その2)
白内障など眼科的手術の後遺症で瞳孔不同が生じてしまうことがある。
◯動眼神経麻痺による散瞳
例えば一側性の散瞳では動眼神経の圧迫障害によることが多い。瞳孔括約筋を支配する副交感神経は動眼神経の起始部では上部表層にあり、外方からの圧迫で早期から障害されてしまうからである。
動眼神経麻痺(同側の散瞳+対光反射の消失)の原因としては
・脳動脈瘤による圧迫(内頚動脈の後交通動脈分岐部動脈瘤IC-PC)
・脳浮腫による鉤ヘルニア
などを想起する必要がある。
◯頭部外傷後の脳出血による一側性の散瞳
その他、外傷後の一側性に現れる散瞳は中硬膜動脈よりの出血による鉤ヘルニアを意味している。鉤ヘルニアとは海馬鉤のヘルニアのことであるが、脳梗塞や脳内出血などで頭蓋内圧が亢進したとき、鈎部がテント切痕を越えて侵入し、脳幹や脳神経に向かって押し付けられる。これにより脳ヘルニアの一種である鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニアとも)が発生する。鉤ヘルニアで動眼神経が圧迫されれば散瞳や対光反射消失を引き起こし、中脳腹側の大脳脚を圧迫すれば対側の半身麻痺を引き起こしうる。脳幹の圧迫が進行すると致死的であるため緊急を要する。(↓テント切痕ヘルニア参照)
画像引用:https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/cranialnerve/section_2_01/
◯ホルネル症候群による片側の縮瞳
・瞳孔交感神経の走行について復習
瞳孔交感神経は視床下部から交感神経の一次ニューロンが同側性に脳幹網様体部を下降した後、第1,2胸髄の側角(脊髄中間外側核)に達しシナプスを形成する。
二次ニューロンは交感神経幹に入って上行し、傍脊髄交感神経節の1つである頸部交感神経節でシナプスを形成する(いわゆる節前線維)、そして三次ニューロンは上頚神経節から始まり、内頚動脈とともに頭蓋内に入り眼窩内に至る。その後、長毛様体神経として瞳孔散大筋を支配する。これらの経路が障害されると瞳孔は縮瞳し、眼瞼が狭小化する(→ホルネル症候群)
一次ニューロン障害の原因:ワレンベルグ症候群、頸髄腫瘍、多発性硬化症
二次ニューロン障害の原因:パンコースト症候群
三次ニューロン障害の原因:内頸動脈動脈瘤
【障害部位のイメージ】
画像参照:https://ameblo.jp/docterslicense/entry-11941946302.html
【救急においては瞳孔不同はいつ評価されるのか】
瞳孔1mm以上の不同があると頭蓋内疾患を強く示唆する(とある報告によると陽性尤度比9.00とのこと。瞳孔不同のない人に比べて9倍の確率で何らかの頭蓋内病変が出現しているという意味) 。特に頭部外傷後の緊急度の評価、外傷後でなければ脳出血などによる脳ヘルニア徴候の1つとして評価される。
外傷患者などで緊急度の指標として用いられている。
神経切迫状態を意味するもの(=脳ヘルニアを疑うべき所見)by神経内科ハンドブック
・瞳孔不同
・新規の麻痺
・GCS8点未満
・進行する意識障害(GCSの2−3ポイント以上の悪化)
・頭部CTにおいて大型の占拠性病変、5mm以上の正中偏位、脳底槽の圧迫もしくは消失
【瞳孔不同があると連絡を受けたらどうするか】
病棟の看護師から瞳孔不同があるがどうしたらよいかと連絡を受けた場合でも、上記の通り瞳孔左右差1mm以上であるか確認する。そして瞳孔と同じように重要な所見としてクッシング反応の有無を確認する。クッシング反応とは頭蓋内圧が亢進した場合に出る徴候であり、高血圧・徐脈となる。瞳孔不同、クッシング反応が認められる場合は緊急頭部CTを施行し、鉤ヘルニアなどで頭蓋内圧亢進している状態であれば高浸透圧利尿薬や開頭術が必要になる。
また追記します。。