肝性脳症を疑ったら
◯肝性脳症の診断
肝性脳症とは肝硬変などの基礎疾患がある患者に何らかの誘因が加わって意識レベル低下や羽ばたき振戦などを呈している場合などに疑われるが明確な診断基準はなく、総合的に診断する他ない。特に意識障害に関しては他の原因を精査して除外された時に肝性脳症を考える。また肝性脳症ではNH3は上昇することが多いが、他の物質によっても引き起こされる。よって高アンモニア血症は参考にはなるが診断できるわけではない。
◯肝性脳症の誘引
・窒素摂取の増加
→消化管出血(まずは除外必要)、蛋白食の増加、便秘(腸内細菌によるアミノ酸代謝が過剰になる)
・薬剤性
→中枢神経系に作用する薬剤(バルプロ酸)、利尿剤、麻酔薬・睡眠薬、抗不安薬、鎮静薬
・電解質異常
→アルカローシス、低ナトリウム・低カリウムなど
・その他
→感染症、脱水症、低酸素血症、術後、急性肝障害、腎不全、門脈閉塞等
◯肝性脳症の重症度
Ⅰ度:人格変化、イライラ、昼夜逆転など
Ⅱ度:無気力、認知機能低下。羽ばたき振戦がみられる
Ⅲ度:著明な精神混乱、意識障害、昏迷、健忘。筋固縮、バビンスキー反射陽性、クローヌス
Ⅳ度:昏睡状態、羽ばたき振戦は消失
◯アンモニアと肝性脳症の重症度の関係
アンモニアは様々な原因で上がりうるので肝性脳症の診断に必須ではない。
肝性脳症0度 →血中アンモニア値75.1±52μg/dL
肝性脳症1〜2度→血中アンモニア値173±66μg/dL
肝性脳症3〜4度→血中アンモニア値234±94μg/dL
というデータもある。【CJEM. 2006 Nov;8(6):433-5.】
意識障害の際はアンモニアを測っていれば診断の一助にはなる。
*また、アンモニアは採血してからすぐに検査すること。タンパク質や非アンモニア窒素化合物からのアンモニア濃度は上昇してしまう。
◯アンモニア上昇の他の原因
・痙攣後や激しい運動後
・アンモニアの代謝低下=肝臓を血液が通らない(門脈〜中心静脈シャントが存在する場合)
◯肝性脳症の治療
・誘引の除去とその治療
・モニラック®(ラクツロース):ガラクトースとフルクトースからなる合成二糖類であり、これを経口投与すると腸内細菌によって乳酸に分解される。乳酸は酸性物質であるのでH+を提供し、腸内細菌叢が作り出したアンモニアNH3と結合してアンモニウムイオンNH4+となる。NH4+はアンモニアと異なり細胞膜を通過できないために消化管から吸収されずに便として排泄される。よってラクツロースは肝性脳症の原因物質の1つであるアンモニアの吸収を抑制することができるのである
・抗菌薬:メトロニダゾールなど非吸収性抗菌薬によって細菌のアンモニア産生を低下させる
・アミノレバン®:分岐アミノ酸。点滴、意識レベルが改善したら内服に切り替え。
・安静:腸管血流の改善が有効
また追記・更新します。