肝酵素上昇の原因と鑑別
肝酵素上昇の原因と鑑別
まずASTやALTなど肝逸脱酵素がメインで上がっているのか、それともALPやγGTPなど胆道系酵素がメインで上がっているのか、それとも両方とも上がっているのかをみる。
一般的に…
・トランスアミナーゼ>500でALP<正常上限の3倍であれば肝細胞傷害
・トランスアミナーゼ<500でALP>正常上限の3倍であれば胆道閉塞
を考える
◯肝細胞障害パターンの肝胆系酵素上昇をみたら
1,本当に肝臓が原因か考える
ポイント1:AST,ALTは肝臓以外にも分布している
AST、ALTは全身に分布している。ASTは心筋、骨格筋、腎臓、肺など様々な臓器に多く分布しているが、ALTは全身に分布していながらもASTに比べると肝臓特異的。
よって、「ALTほぼ正常でASTだけが上昇していたら肝臓由来ではない」と考える。
ポイント2:LDHの値に注目する
肝細胞に含まれるLDHはAST、ALTよりも少なく、半減期もAST、ALTよりも短い。よって、肝細胞障害ではLDHは決してAST、ALTよりも高くならない。
肝臓由来以外の鑑別:心筋梗塞、甲状腺機能異常、腎梗塞、横紋筋融解症、溶血など
心筋梗塞→トロポニン、CKMB、心電図など
甲状腺機能異常→FT3,FT4,TSH
横紋筋融解症→CKとLDHの著明な上昇。AST,ALTを上回る。
溶血→間接ビリルビン上昇、LDH上昇、ハプトグロビン低下、Hb低下
2,ASTとALTの上昇のパターンから時期を推測する
・ASTの半減期は5−20時間程度、一方でALTのの半減期は40−50時間程度と言われている。よって、肝細胞障害の急性期には肝臓に多く含まれるAST優位な上昇を、慢性期になれば半減期の長いALT優位の上昇を示すことが多い。
・肝臓にはASTの量はALTの3倍程度多い。よって肝硬変などの持続的な肝障害ではAST優位に上昇し続ける。
3、アルコール性かどうか検討する
・飲酒歴の確認(少量の申告もありうる)
・AST/ALT比率>2で尚且ASTは高くても400以下→アルコール性
(ASTは肝細胞のミトコンドリアに多く存在し、ALTは肝細胞の細胞質内に多く存在する。アルコール代謝物のアセトアルデヒドはミトコンドリアに障害をきたすため)
また、常用飲酒者であればγGTPやMCVの上昇がある。
*AST優位の肝障害の語呂合わせ
明日も観光あるが劇→明日も:AST優位 観光 :肝硬変 ある :アルコール性肝障害 が :肝細胞癌 劇 :劇症肝炎
4,ウィルス性肝障害の評価(採血)
◯急性ウィルス性肝炎
A型ウィルス→IgM-HA抗体
B型ウィルス→HBs抗原、IgM型HBc抗体、HBV-DNA
C型ウイルス→HCV抗体、HCV-RNA
(HCV抗体がスクリーニング。HCV-RNAの持続で慢性肝炎の診断)
E型ウィルス→IgA型HEV抗体、HEV-RNA
◯他のウィルスによる肝障害(主なウィルスの増殖の場が肝臓ではないもの)
・EBV感染:唾液を介して感染(キス病):若年者、発熱、全身リンパ節腫大、咽頭痛、末梢血異型リンパ球
採血→VCA-IgM抗体、VCA-IgG抗体、VCA-IgA抗体、EBNA抗体
(初回感染はVCA-IgM抗体陽性、VCA-IgG抗体が640倍以上の高値またはペア血清で4倍以上の上昇、抗EBNA抗体の陽転化またはペア血清で4倍以上の上昇のいずれかの場合に診断可能)
・CMV感染:初回感染と再賦活化による日和見感染(免疫抑制状態の患者など、発熱、咽頭痛、リンパ節腫大)
→CMV-IgM抗体、CMV-IgG抗体、CMV抗原(CMV感染の診断はCMV-IgM抗体が陽性、CMV-IgG抗体がペア血清で4倍以上の上昇、CMV抗原陽性のいずれかで診断可能)
5,脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患)で説明がつかないか?
NAFLDではALT優位型のアミノトランスフェラーゼの上昇。
アルコール性と違いALT>ASTなのがポイント。γGTPやALP上昇も伴う。
6,薬剤性を考える
肝胆系酵素上昇をみたらどんな場合でも薬剤による影響も考える。
原因薬剤で頻度の多いものから
抗生剤、向精神病薬、健康食品、鎮痛薬、循環・呼吸器系薬剤、漢方…などとほぼ何の薬でも原因になりうる。薬剤性を考えるときは直近だけでなく、1年近く前までの内服薬・サプリメントを確認する。健康食品や漢方では1年以上たってから肝障害をきたすことが知られている。
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7,もし1000以上の著しい上昇をみたら
・AST,ALT>1000→急性ウィルス性肝炎、薬剤性肝炎、中毒性肝障害、虚血肝(低酸素性肝炎、ショック肝などの言い方も)の4つの病態を考慮する。
◯ショック肝とは…
虚血肝は循環不全に伴う肝障害であり、肝酵素上昇のみがメインプロブレムという状態ではない。肝臓に酸素が行かないことが原因でうっ血性心不全、敗血症、肺塞栓、心筋梗塞などが原因となる。AST/ALT<2でLDH>ASTとなる。