単純ヘルペス脳炎についてmemo
単純ヘルペス脳炎についてまとめ
【疫学】
・ウィルス性脳炎の中で最も多い。国内で350人/年程度と稀だが死亡率は高い。
・9歳以下で発症のピークがあるが、全年齢でみられる。
・単純ヘルペスウィルス1型の再燃による発症が多い(約70%)、初感染による発症は30%ほど。
・ヘルペス脳炎の90%以上はHSV-1が原因で起こる→単純ヘルペス脳炎
・感染経路としては、ヘルペスウィルスの知覚神経節への潜伏感染後の再活性化や上気道感染から嗅神経経由又は血行性の感染がありうる。
【症状】
・数日の経過で進行する発熱、意識障害、神経症状が出現し約半数に髄膜刺激徴候もみられる。
・脳圧亢進症状と髄膜刺激症状である頭痛(70%)や見当識障害(75%)、嘔吐なども高頻度に出現する。
・ヘルペス脳炎は側頭葉や大脳辺縁系が好発部位で、側頭葉辺縁系脳炎であれば記憶障害、性格変化、行動異常、けいれんなどの脳炎症状を呈しうる。
・嚥下障害(30%)や片麻痺(30%)などの局所的な神経症状を呈することも有り、脳血管障害と誤解されることもある。
【鑑別】
側頭葉症状を呈するものとして単純ヘルペス脳炎は多いが、その他にも局所的な脳膿瘍、結核、サイトメガロウィルス感染症、腫瘍、硬膜下血腫なども側頭葉症状を呈しうる。
【髄液検査】
・髄液PCRが最も感度特異度が良いとされている(感度98%、特異度94%)
が、発症72時間以内ではPCRが偽陰性のことがあるので、可能であれば1,2日後に再検査が求められる。
・髄液一般検査は糖は正常、タンパク・白血球が軽度上昇(80%程の頻度)、髄液圧の上昇を示すことが多い。また、出血性壊死病変に対応してキサントクロミーがみられることもある。
が、全く正常であることも有り髄液検査でヘルペス脳炎を除外することは出来ない。
・髄液培養も感度4%以下と報告があり有用性は低い。
・抗体価の検査では、髄液中のHSV-IgM抗体陽性、もしくは急性期と2−3週間後のペア検体で4倍以上の変動があれば診断できる。
【画像検査】
・頭部CTで側頭葉付近に局在するmass effectをもった低吸収域を呈することが多い
・頭部MRIはCTよりも更に感度が高く、典型的にはT2強調画像で高信号が側頭葉、前頭葉を非対称的に障害を認める。MRIが全く正常であればヘルペス脳炎の可能性はかなり低くなると言われている。
【脳波】
・CTよりも早期の段階で前頭葉や側頭葉の異常を拾うことが出来る。
・頻度としては、異常脳波93%、てんかん様異常75%、周期性片側性てんかん様放電(PLEDs)50%など
【治療】
・単純ヘルペス脳炎を疑われた段階で抗ウィルス薬治療を開始、否定されたら中止する。一般的にはアシクロビル10mg/kg,1日3回1時間以上かけて14日間点滴静注する。
・重症例ではアシクロビルを20mg/kgまで増量しうる。
・アシクロビルの副作用として肝障害、骨髄抑制、腎機能低下などがありうるので、副作用を少しでも減らす目的でアシクロビルの投与は一時間以上かけて行う。
・アシクロビル不応例には15mg/kgを1日1回10〜14日点滴静注する。
・痙攣があれば痙攣のコントロールを行う。
【参考文献】
ジェネラリストのための内科診断リファレンス、神経内科ハンドブック、内科診断学、レジデントのための感染症診療マニュアル