起立性低血圧の定義とその原因
ヒトが起立するとおよそ400〜600mlの血液が下半身に移行するが、健常人であればそのことによって血圧が大幅に低下することはない。何故なら血液の下半身への移行に伴って代償的に交感神経を活性化させることにより末梢血管抵抗が増加し、心拍数・心拍出量も上昇するからである。起立性低血圧は何らかの原因でこれらの代償機構が正常に働かなくなるために起こると言える。
◯起立性低血圧の定義は…
臥位から起立3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、もしくは拡張期血圧が10mmHg以上低下する場合をいう。尚、健常人であれば起立による収縮期血圧は3−4mmHg程度低下し、拡張期血圧は5mmHg程度上昇すると言われている。
◯起立性低血圧の分類
起立性低血圧は神経原性と非神経原性のものに分類できる。神経原性起立性低血圧では血圧低下に対して代償的に脈拍数が増加しないものを言い、つまりは自律神経失調が背景に考えられる。一方で非神経原性起立性低血圧は血圧低下に対して代償的に脈拍が増加するものを言う。
◯神経原性起立性低血圧の鑑別
【中枢神経系変性疾患】:多系統萎縮症(シャイドレーガー症候群、線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症)、パーキンソン病、レビー小体型認知症など
【脊髄や延髄障害】:腫瘍、脊髄空洞症、多発性硬化症、血管障害、横断性脊髄炎、外傷による脊髄損傷など
【末梢神経障害】:ギランバレー症候群および類縁疾患、アミロイドニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー
【腫瘍】肺小細胞がん(腫瘍随伴症候群)
【薬剤性】:L-dopa、βブロッカーなど降圧薬、フェノチアジン系、リチウム
【その他】アルコール依存症、糖尿病、腎不全など
◯非神経原性起立性低血圧の鑑別
高度の下肢動脈硬化症、脱水による循環血液量の低下、出血による循環血液量の低下(特に消化管出血や子宮外妊娠に注意)、心不全、高齢者の長期臥床など
・ちなみに、入院している高齢者であれば3回検査をすれば7割が起立性低血圧の診断基準を満たすとの報告もあり、実臨床的には症状があるのかどうか(=困ってるのかどうか)が大事なのかもしれない…。