しびれの鑑別診断memo
◯そもそも「しびれ」は本当にしびれなのかよく問診する
しびれ→感覚異常、感覚低下、脱力、関節炎によるこわばりもしびれと表現される
考え方その1:病態で分類する
・脳障害
・脊髄病変
・神経根障害
・末梢神経障害
1,脳障害
障害分布のパターン
・顔面含め半身の障害(by視床から感覚野にかけての病変)
・顔面と体幹の障害が逆(by延髄外側症候群)
・半身の体幹のみの障害(by延髄内側症候群)
・口と手の障害(by視床病変)
脳障害の原因:脳出血や脳梗塞などの脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症などの脱髄疾患。
脳梗塞や脳出血などでは麻痺や感覚障害、構音障害など他の症状を呈することが多いが、純粋なしびれのみの症状を呈する場合も少なくない。また、片側の手指と同じ側の口のしびれなどを呈するcherio-oral syndromeを呈することもある。
原因としては視床小梗塞が多い
2,脊髄病変
(脊髄断面の例)
画像参考:http://comedical.blog23.fc2.com/blog-entry-759.html
キホンのおさらいであるが、神経伝導路について
【皮質脊髄路】
・外側脊髄視床路:痛覚と温度覚に関する伝達
一次ニューロンは感覚受容器(皮膚)から脊髄神経節・後根を介して脊髄後角で終わる
二次ニューロンは脊髄後角からスタートし脊髄断面を交叉し、反対側の脊髄側索を上行し、延髄内側毛帯、中脳内側毛帯を介して視床で終わる。
三次ニューロンは視床から内包を通り大脳皮質の感覚野に投影される。
・前脊髄視床路:触覚と圧覚に関する伝達(以下の通り)
ちなみに錐体路は次の通り走行する。
一次運動野→放線冠→内包→中脳大脳脚→橋底部→延髄の錐体で交叉(80~85%は対側-外側皮質脊髄路、15~20%は同側-前皮質脊髄路を下行)→脊髄前角細胞の順に末梢へ下行します。
脊髄病変の分布パターンとその原因
【横断性脊髄障害】
原因:外傷性脊髄損傷、腫瘍による圧迫、多発性硬化症、脊髄出血など
症状:障害レベル以下の全感覚低下、障害レベルより下の上位運動ニューロン障害、障害レベルの下位運動ニューロン障害、膀胱直腸障害
・障害部位を正確に決めるには背中で正中から2,3cm脇によった場所で痛覚検査をする。脊髄神経根の後枝の支配を受けているため、椎体の高さとデルマトームのズレが少ない。
【前方障害型】(”前方”といいつつ後索以外かなり広範囲に障害される)
原因:前脊髄動脈閉塞症候群、腫瘍や外傷による圧迫、後縦靭帯骨化症など
症状:障害レベル以下の温痛覚低下、障害レベルより下の上位運動ニューロン障害、障害レベルの下位運動ニューロン障害、膀胱直腸障害
ポイント:後索は障がいされないので深部感覚や触覚は低下しない。(触覚は後索と脊髄視床路両方を上行する)。
【後方障害型】
原因:神経梅毒(脊髄癆)、亜急性脊髄連合変性症など
症状:障害レベル以下の深部感覚低下。前方は保たれるので表在感覚は障害されない。運動ニューロン障害もなし。
ポイント:振動覚は低下、深部感覚は保たり、その逆ということもありうる(機序不明)。振動は遠くまで響くので、振動覚障害のレベルを正確に決めるのは容易ではない。
【中心部障害型】
原因:脊髄空洞症、脊髄内腫瘍
症状:障害レベルでの温痛覚低下(宙吊り型温痛覚障害)。運動ニューロン障害はないが、病変が前角や側索に及んだ場合は当然影響を受ける
ポイント:中心管の腹側の灰白交連は脊髄視床路に合流する繊維が横断するので、障害されると髄節性に温痛覚は障害され、深部感覚は保たれる。
【半側障害型】
原因:brown-sequard症候群など
症状:障害レベルの同側の全感覚低下、障害レベルより下の同側の深部感覚低下、障害レベルより下の反対側の温痛覚低下、障害レベルより下の同側の上位運動ニューロン障害、障害レベルより下の反対側の温痛覚低下
3,神経根障害
脊髄から出ている神経根が圧迫などによって障害されることにより出現する。
(↓椎体と神経根の位置関係)C3/C4にあるのがC4神経根。
デルマトームの一つの分節に一致するしびれ、痛み、異常感覚が出現する。
神経根性疼痛は痛みが強い。下位運動ニューロン障害となるため腱反射は減弱する。
代表的なものとして頚椎症や腰椎症を抑えておく。
頚椎症ではC5,6,7,T1の障害
C5:筋力低下:三角筋、棘下筋、上腕二頭筋
C6:筋力低下:手首伸筋、上腕二頭筋
C7の筋力低下:上腕三頭筋
腰椎症ではL4,5,S1の障害
画像引用:http://chousei58.com/?p=70076
4,末梢神経障害
障害される末梢神経の分布によって単神経炎、多発単神経炎、多発神経炎とに分類される。
・単神経炎:
単一の神経のみが障害されたもので物理的圧迫、外傷、炎症などが原因となる。疾患の例としては手根管症候群、肘部管症候群、坐骨神経痛、胸郭出口症候群など。
・多発単神経炎:
単神経炎が多発しているもの。偶然が重ならない限り左右非対称に症状が出現する。原因としては:血管炎、サルコイドーシス、アミロイドーシス、CIDP(慢性炎症性脱髄多発根神経炎)、HIV、糖尿病など
・多発神経炎:
全身の神経が左右対称に障害される末梢神経障害。靴下手袋型の感覚異常、深部腱反射の低下、感覚障害優位、つま先から上行性に進行する(多発神経炎であれば手から始まることはない)。原因としては代謝性、免疫性、中毒、遺伝性など様々なものがある
考え方その2:時間経過で分類する
突然発症:数秒単位で発症
脳障害:脳梗塞、脳出血
脊髄型:硬膜外血腫、脊髄梗塞、解離性大動脈瘤
急性発症:2−3日前から
脳障害型:脳炎、多発性硬化症
脊髄型:多発性硬化症、視神経脊髄炎
神経根障害:帯状疱疹
末梢神経型:ギランバレー症候群、閉塞性動脈硬化症、急性絞扼性ニューロパチー、ポルフィリン症
亜急性発症:1−2週間前から
脳障害型:硬膜下血腫、脳膿瘍、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫
脊髄障害型:硬膜外膿瘍、転移性腫瘍、悪性リンパ腫、椎間板ヘルニア
神経根型:椎間板ヘルニア 、パンコースト腫瘍
末梢神経型:薬剤性、アルコール性、代謝性、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、亜急性感覚性多発ニューロパチー
慢性発症:(一ヶ月以上前から)
脳障害型:脳動脈期系、髄膜腫、脳腫瘍
脊髄型:硬膜動静脈瘻、サルコイドーシス、脊髄腫瘍、頚椎症、ALS
神経根型:頚椎症
末梢神経障害型:CIDP、手根管症候群、肘部管症候群など、糖尿病や尿毒症など代謝性、シャルコーマリートゥース病
しびれの治療薬
原疾患の治療が最優先であるが、しびれ症状の緩和目的では次のようなものが用いられる。
・ビタミンB12:末梢神経障害の治療薬として用いられる。ビタミンB12欠乏症としてのしびれに対してはエビデンスがあるが、それ以外ではエビデンスがなくともしばしば処方される。
・ビタミンB1:ビタミンB1欠乏のアルコール性神経障害において有用。
・デュロキセチン:糖尿病性末梢神経障害に対する疼痛緩和目的で用いられる。
・プレガバリン(リリカ®):末梢神経性疼痛に対して用いられる。ふらつきに注意。
また追記、更新します。