便培養をいつ取るか
便培養の適応
便培養とは便に含まれる微生物を培養し、分離同定することであり感染性腸炎の原因菌の診断に必要になる。感染性腸炎には主にウィルス性の腸炎と細菌性腸炎とがあるが、ウィルス性腸炎の場合、細菌ではないので培養は出来ない。よって、便培養は細菌性腸炎を疑う際に適応となる。細菌性腸炎の原因菌としてはサルモネラ、カンピロバウター、赤痢、病原性大腸菌O157などが典型的。これらの培養にはそれぞれ異なる培地が必要になるので何の菌を想定しているのか検査室に伝える必要がある。逆に、何の菌も想定せずに闇雲に便培養をしては検査室の負担にもなるだけであるし、感染症治療の原則からしても正しいスタンスではない。
細菌性腸炎は多くの場合大腸型腸炎(大腸で増殖し、大腸粘膜の傷害が主な病態となる腸炎)の形を取る。症状としては血便、腹痛、発熱が典型的で、ウィルスによる小腸型腸炎(=水様便、繰り返す嘔吐、熱はなし等…)と違い嘔気は少ない。
小腸型の臨床像を取りうる腸炎であっても海外渡航歴があったりあるいは脱水著明であればコレラやエルシニアなど治療可能となる原因菌の可能性もあるので便培養はとってもよい。
◯入院患者の急性下痢では便培養を取るべきか
入院患者が下痢を呈した時にまず考えるのはクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)による偽膜性腸炎である。これは抗菌薬使用によって腸内細菌叢が変化することにより生じる。CDIの診断には便培養も1つの手であるが、便中トキシンA、B毒素の検出のほうが短期間ででき、日本では標準的。確定診断をするためには大腸内視鏡が必要であるが侵襲性が高いので全例必要ではない。