PT-INRの治療域と延長時の対応
◯ワルファリンはビタミンK依存性の凝固因子(Ⅱ因子、Ⅶ因子、Ⅸ因子、Ⅹ因子)を阻害することで抗凝固作用を示す。適応としては長期の臥床患者の静脈血栓症の治療や心房細動に寄る血栓形成の抑制、心臓人工弁置換術後の血栓の予防などである。
◯ワルファリンは凝固を抑制してくれるが、抗凝固を頑張り過ぎると逆に出血が起こりやすくなる。故にワルファリン治療を行う際はその量が適切であるかどうか定期的に監視しなければならない。通常治療開始の最初の週は毎日、その後の2〜3週間は一週間に一度、それ以降の安定期は月に一度のペースで検査を行う。
◯ワルファリン投与のモニタリングの指標として用いられるのがPT-INRである。PTとはプロトロンビン時間の略、INRとは時間国際標準比の略である。プロトロンビン時間は外因系の凝固時間を反映しているが、その時間は試薬や測定装置などによって変わってくるために施設によって基準値に大きな差がでてしまう。そこで、検査ごとに正常対照血漿を同時に測定しておいて、その凝固時間と比較することでPTの値の施設間での違いをなくすために作られた指標がPT-INRである。*1
◯PT-INRの望ましい治療域
PT-INRをどのぐらいの値に保てばよいかはその病態や状況によって異なる。
「異常値の出るメカニズム第六版」によればPT-INRの理想的な治療域は次の通り
心房細動、深部静脈血栓予防→PT−INR:1.5〜2.5
腰部、大腿骨骨折手術→PT-INR2.0〜3.0
深部静脈血栓の治療、肺梗塞、一過性脳虚血発作→PT−INR2.0〜3.0
反復性深部静脈血栓症、反復性肺梗塞→PT-INR2.5〜4.0
心筋梗塞を含む動脈疾患、移植動脈、人工弁置換術→PT-INR3.0〜4.5
一般的にPT-INRが4.5以上であれば出血リスクが上昇すると言われている。
◯ワルファリンを過剰投与してしまった時はPT-INRを参考に次のように対応。
INR=1.0〜5.0の時:経過観察
INR=5.0〜8.9の時:1回もしくは2回のワルファリンの中止そしてビタミンKを1.0-2.5mg経口投与
INR=9.0以上の時:ワルファリンの中止。経口ビタミンK5〜10mgの投与。治療域に改善した後、低用量のワルファリンを再開。
・INR値に関わらず、脳出血など重大な出血が起きているのであればビタミンK10mgをゆっくり静注、それに加えてFFPを10-20mL/kgで投与。INRのフォローは必要に応じて十分に行う。(ちなみに静注も内服も効果の強さは同じ。静注の方が速やかに吸収されて効果が早く出現するので緊急事態の場合は静注を選択する。)
(参考「UCSFに学ぶ出来る内科医への近道」、「内科研修の素朴なギモンに答えます」)