wearing offの機序とその治療法
L-dopa副作用のwearing offの機序とその治療
パーキンソン病は中脳の黒質においてドーパミンが欠乏することによって無動や振戦など様々な症状がでる疾患である。しかしドーパミンは分子サイズが大きくて血液脳関門を通過できないためにドーパミンを直接投与しても効果がない。よってドーパミンの前駆体であるL-dopaを投与して血液脳関門を通過させてから黒質線条体でドーパミンに変換させて作用させる。
L-dopaの副作用としてwearing offが知られている。これは治療薬であるL-dopaの効いている時間が短縮し、次のL-dopaを飲む前にだるさや胸苦しさなどの非運動症状が出現してしまう現象のことである。なぜwearing offが発生してしまうのだろうか。
L-dopaは前述のとおり、黒質のドーパミン細胞に行きそこのドーパミン細胞でドパミンに変換されてストックされる。貯蔵されたドーパミンは定期的にシナプス間隙に放出され、また受容体に結合せずにシナプス間に漂ってるドーパミンはドーパミン細胞に再取り込みされて再び貯蔵される。
ドーパミンの放出イラスト*1
しかし、パーキンソン病が進行して黒質の変性が起こるとせっかく血液脳関門を通過したL-dopaはドーパミン細胞に貯蔵されなくなる。L-dopaはドーパミン細胞の代わりに周囲にあるグリア細胞やセロトニン分泌細胞に受け取られてドーパミンに変換されるが、これらの細胞はドーパミン細胞のように貯蔵機能がないのですぐにドーパミンを消費ししまう。更にシナプス間隙に出たドーパミンの再取り込みも出来ないためにL-dopaを内服してもあっという間にドーパミンは枯渇してしまう。
【wearing offの対策】
wearing offの対策としてはL-dopaの頻回の投与があるが、血中ドーパミン濃度が乱高下することになる。ドーパミン濃度が高い時はジスキネジアの症状が、低い時には無動の症状が出現する。ちなみに、wearing offの発生頻度は服用から5年でおよそ50%と言われている。
wearing offは非常に非常にやっかいな問題であるので、70歳以下で認知機能の合併症などがない場合は原則ドーパミンアゴニストで治療を開始する。効果がなければドーパミンアゴニストを増量していき、最終的にはL-dopaとの併用になる。
対策その1
wearing offが発生したらエンタカポン(COMT阻害薬)を用いる、エンタカポンは末梢組織でCOMT阻害薬として働いてLードパが代謝されてしまうのを防ぐ効果がある。エンタカポンによってL-dopa濃度の最大値を変えずに半減期を伸ばすことが可能である(オンの時間が一時間ほど伸びる)。ジスキネジアが発生したらエンタカポンは中止する。
対策その2
エンタカポンが効かない場合はセレギリン(MAO-B阻害薬)が用いられる。セレギリンは血液脳関門を通過し、脳内でのドーパミンがモノアミン酸化酵素によって代謝されてしまうのを防ぐ。エンタカポン同様、ジスキネジアが発生したら中止する。