読書:傷はぜったい消毒するな
傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 (光文社新書)
- 作者: 夏井睦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/06/17
- メディア: 新書
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普段何気なくしていることの中にはよく考えてみると何故それをしているのかよくわからないことがある。
例えばわさびを醤油に溶かして刺身を食べたり、麦つゆにわさびを溶かして食べるのもおかしい。わさびの辛み成分は揮発性のために溶かすとすぐに辛みも香りも飛んでしまうからである。まさに無意味。
教科書とは所詮その時代の常識をまとめたものに過ぎない。だから常識が変わってしまえばその教科書はゴミとなる。
今までの怪我の治療法とは異なり、傷を消毒しない、創面を乾燥させない湿潤療法。
・傷が治るメカニズム
怪我の治り方には2パターンある。
1つは創部に毛穴が残っている場合。もう一つは創部に毛穴が残っていない場合。
毛穴の表皮細胞が遊走、増殖する。毛穴だけでなく汗管でも同様である。
毛穴の残っていないような深い怪我の場合は、最初は肉芽という赤い組織が傷口をおおう。この肉芽はコラーゲンや毛細血管に飛んだ丈夫な組織で傷口をしっかりと覆ってくれる。その上に無傷な皮膚の細胞が遊走してきて、最終的に肉芽組織そのものが収縮するため傷自体が小さくなる。
このような傷の治り方がどうして傷口を乾燥してはならないとなるのだろうか。
皮膚の再生に関わっているのは皮膚の細胞、細胞遊走の舞台である真皮、肉芽である。これらはいずれも乾燥に非常に弱く、乾燥させられるとあっけなく死ぬ。かさぶたというのは傷口が乾燥して死に、ミイラになったような物である。
以前はかさぶたが出来ると治ると誤解されていて、はやく乾燥させてかさぶたにしようなどおしていたが、これは大間違いで絵ある。かさぶたは中にばい菌を閉じ込めて上から蓋を擦るような物であるから、かさぶたになるといつまでも治らないし、再び化膿してしまう可能性もある。
・では傷口に水を与え続ければよいのか
否。水を通さない物、空気を通さない物で傷口を覆ってやるだけでよいのである。傷口からは傷を治すための液体が常に分泌されている。その正体は細胞成長因子という物質である。傷口がじゅくじゅくしているのがそれである。
ある成長因子は皮膚の細胞の分裂を促し、別の成長因子は船医が細胞に作用してコラーゲンの産生を促進させ、また別の物は毛細血管新生を促している。人類は進化の過程でこんなすばらしい治療薬を自前で分泌できるようになってきているのだから、あとはそれらが絶えず傷口を覆ってくれるようにしてあげればよいのである。傷の上を覆う物は傷にくっつかず、細胞成長因子を外に逃がさない物であればなんでもOK。ただ、ある程度の水分吸収能力があることが望ましい。そうしないと傷周囲の皮膚にあせもができたりとびひ(濃かしん)ができたりしてしまう。お勧め商品は「キズパワーパッド」や「プラスモイスト」。
「任意の系が与えられたとき、その系の内部では証明できない命題が常に存在する」ゲーデルの不完全性定理。
この考えで行けばより高い次元に移り、そこから俯瞰しなければ真偽は判定できない。
医学の問題を医学で解決するのはおかしいことになる。では、医学より高い次元の物は何か。
それは生物学であり物理学であり化学しかない。つまり、化学や生物学の事実をベースにしてそこから演繹的思考を積み重ね、医学の諸問題を解決するべきなのである。
■傷口を消毒してはいけない理由
消毒薬は細菌の細胞膜のタンパク質を変性させることで殺菌しているが、人間の細胞膜も同様に変性させてしまう。それどころか、細菌と違って人の細胞は細胞壁を持たないのでダメージがもろにくる。
細胞壁を通過させるために界面活性剤などが添加されてはいるので細菌も殺せはするが人間の細胞の方がよっぽど早く殺されてしまう。消毒薬は血液やウミがあると結合し、殺菌効果を失ってしまう。よって人間の細胞は確実に殺されるが、細胞壁のある細菌は時間がかかり運が良ければ殺されない。つまりコストパフォーマンスはかなり悪い治療薬、それが消毒薬なのである。
消毒薬で傷を消毒するのは傷口に熱水をかけて消毒しようとするのとなんら変わらない。痛いのは当たり前である。
しかし歴史の積み重ねで痛いけれども効果はあるし仕方がない。という思考停止状態になっているのが現在の医学界の実情。一生懸命に傷を消毒すればするほど、傷の治癒が遅れ、場合によっては傷が深くなり、その結果として傷が化膿する危険性が高くなることになる。