悪性症候群の診断基準と治療について
◯悪性症候群とは
悪性症候群とはL-dopaなどパーキンソン病薬の急な減量・中断や抗精神病薬(ドパミン受容体遮断薬)の投与によってドーパミン神経系のの急激な機能低下が起こり、発熱、発汗・尿閉などの自律神経症状、振戦・筋強剛などの錐体外路症状、および意識障害を呈する症候群のこと。
◯症状としては
・高熱(頻度としては37.1-38度が12%、39度以上の高熱が62.3%)
・精神症状(意識障害:70-82%に見られる。もともと精神症状があって評価困難が有ることも多いが、「何も話さず無言」「疎通性がない」などが特徴)
・自律神経症状(発汗、流涎、頻脈、血圧変動など)
・錐体外路症状(筋強剛、振戦)(筋強剛は91-96%にみられる。典型的には数日単位で進行して、同時に振戦やミオクローヌスなども呈する)。
注意点としては、非典型例が存在することである。高熱を欠く例、筋固縮を欠く例、意識障害やCK上昇を欠く例など。該当薬剤内服中で高熱や筋肉強剛、CK上昇を見た場合に悪性症候群の可能性を思いつくことが何よりも大事。
◯いつ発症するのか?
抗精神病薬投与中であればいつでも発症しうるが、特に投薬開始後早期(24時間以内16%、一週間以内66%、30日以内96%)との報告も有る。またL-DOPAの急激な中止でも数日の経過で生じる。
◯診断基準その1:(DSM-5の悪性症候群診断基準)
・72時間以内のドパミン受容体拮抗薬の使用歴・ドパミン受容体作動薬の中止歴
・38度以上の高体温が持続性に認められる
・筋強直が認められる
・意識状態の変化が認められる
・血清クレアチンキナーゼが正常の4倍以上に上昇する
・交感神経の不安定性(次の2項目以上を満たす:(1)収縮期or拡張期血圧が通常値の25%以上増加)、(2)血圧の変動が大きい(24時間以内に拡張期血圧が20mmHgもしくは収縮期血圧が25mmHg以上の変動あり)、(3)発汗が多い、(4)排尿障害が認められる
・感染症、中毒症、代謝性疾患、神経疾患が除外される
◯診断基準その2:(Levenson's criteria(1985年)
以下、大基準3つか、大基準2つ+少基準4つで診断する
大基準:発熱、筋強剛、CKの上昇
少基準:頻脈、血圧異常、頻呼吸、意識障害、発熱、白血球上昇
Levenson's Criteriaは古くから知られているが、必ずしも十分に実態を踏まえていない。パーキンソン患者が発熱すると容易に基準を満たしうる。
◯検査のポイント
(採血)炎症反応上昇の有無、脱水の有無、横紋筋融解症の有無(CK上昇、AST・ALT上昇、LDH上昇、腎不全はないか、DICの合併はないかなどに注目
(尿検査)ミオグロビン尿
◯治療
・L-dopaの投与再開(その後、漸減)または抗精神病薬の投与中止(←一番大事)
(ドパストン®静注またはL-dopa/DCI合剤(マドパー®、メネシット®)の経口または胃管からの投与、ブロモクリプチンメシル(パーロデル®)15-22.5mg/dayを胃管より投与する。
・高体温や脱水を伴っていることが多いため十分な補液負荷や電解質補正
・身体の冷却(中枢製の発熱であることが多く、解熱薬は効果が期待できない)
・ダントロレンナトリウムの投与(初回量40mgを静脈内投与し、症状の改善が認められない場合は20mgずつ追加投与。ダントリウム®1-2mg/kgを6時間毎などに投与。ただし1日総量は200mgまで、通常は7日間以内の投与とする。その後経口摂取が可能に慣ればダントロレン経口剤を一回25mgまたは50mgを1日3回、2−3週間投与して、その間に精神症状に対する抗精神薬治療を慎重に開始して、悪性症候群の症状再燃がないことを確認して治療を終了するのが望ましいとされる)
Q,ダントロレンはいつ使うか?→ダントロレンは横紋筋融解症、筋強直高度、高体温がある場合に使用する。軽症例の場合は投与されないことも有る。ダントロレン使用による重大な副作用としては肝障害。採血でフォロー必須。
・ブロモクリプチン1日7.5-22.5mgの経口あるいは経管投与も行われる。
参考文献:
ICU実践ハンドブック
神経救急・集中治療ハンドブック
ホスピタリストのための内科診療フローチャート