早期再分極心電図の特徴と意義
良性早期再分極の一例
Benign Early Repolarisation • LITFL • ECG Library Diagnosisより
✅良性早期再分極とは
良性早期再分極とは若い男性に時々見られる正常亜型であり(正常人の1−5%)、副交感神経の亢進に関連すると言われている。心電図としては、ST上昇をaVR,V1以外の多くの誘導で認める。
名前の通り、従来は良性と考えられていたが、近年では良性早期再分極があると心室細動リスクが高くなるとの指摘があり、また逆に心室細動を起こした患者で早期再分極が多く認められたとの報告がある(Haissaguerre M et al., N Engl J Med, 2008)。
✅心電図的特徴
○徐脈傾向:
前述の通り、早期再分極症候群は副交感神経の亢進と関連しており、徐脈の時に特にわかりやすい。運動負荷で副交感神経を抑制させるとST上昇は消失する。)
○下に凸のST上昇:
下に凸のST上昇が広範囲の誘導に見られる。
ST上昇で何よりも鑑別するべきは心筋梗塞であるが、ST上昇の場所が鑑別のヒントになる。早期脱分極であれば胸部誘導±四肢誘導と広範囲でST上昇が見られるが、もし四肢誘導でしかST上昇がなければ早期再分極は否定的となる。
また下に凸のST上昇の鑑別としては心外膜炎がある。心外膜炎は心電図も大事であるが先行感染の既往や体位や呼吸での胸痛の変動、心膜摩擦音など現病歴や身体所見も重要である。
(↓上に凸、下に凸のST上昇のイメージ)
○ミラーイメージの欠如:
ST上昇があることから急性心筋梗塞との鑑別が重要になるが、心筋梗塞と異なり、ST変化の鏡面像(ミラーイメージ)が欠如していることから区別可能。
*もし心筋梗塞であれば、、前壁梗塞ではⅡ、Ⅲ、aVfにミラーイメージ(対側性ST下降)、下壁梗塞ではⅠ,aVLまたはV1-V4にミラーイメージ(対側性ST下降)が認められる
○J波の存在:
QRSとSTの接合部であるJ点に存在する波をJ波という。J波はQRS終末部に存在するがノッチ(釣り針のような出っ張り)が見られれば早期脱分極を示唆する。fish-hook appearance(釣り針所見)とも言う(下図参照)。ただし前壁梗塞にもJ点のノッチが稀に出現するとも言われており絶対的な所見ではない。
もともとはJ波が早期の再分極開始を示していると考えられていたが、本当にそうかは明らかになっていないようである。
✅良性早期再分極という病名の見直し
良性早期再分極は必ずしも良性ではないという報告がある。
2008年のNEJMの報告では早期再分極の頻度はVf(心室細動)患者のほうが対照群よりも多かったと報告されている(31%VS5%)。また、長期追跡では再分極異常を認めている患者の方が早期再分極が無い患者に比べてVfの再発率が高いことが示されている。
また、その他にも下壁誘導で0.2mV以上のJ波像高を有する例では年間心臓死亡率が1.5-2%、不整脈死が0.8%前後と報告もされている。
よって、この心電図波形は「再分極症候群」や「J波症候群」という病名に変えようという動きもある。
✅早期再分極を見つけたときの対応
・検診でたまたま見つかった→経過観察(1-5%程度の患者がこの心電図なのでほとんどの人は正常)
・胸痛で早期再分極→経過観察
・失神で早期再分極→要精査(Vfの可能性は無いのか?)
参考文献)
・心電図の読み方パーフェクトマニュアル
・主訴から攻める心電図
・心電図ハンター
・実力心電図