芽胞形成菌がエタノールで死なないのは何故か
エタノールで死なない菌がいるのは何故か。
主に病院や研究機関などでは衛生管理のためにエタノール70%が消毒に用いられる。これはエタノールの膜透過作用、揮発性、タンパク質変性などの特性を利用して微生物を瞬時に殺すことが出来るからだ。しかしながら、エタノール消毒の効かない微生物が存在する。土壌や水中に主に生育する芽胞形成菌である。(有芽胞菌とも)
では一体芽胞とは何であろうか。
一部の細菌の作る極めて防御性にとむ構造物である。これは芽胞と呼ばれながらも通常の胞子とは異なり、子孫とも違う。
芽胞が形成されるのは細菌が栄養不足になったときなどで、細胞壁内部で分裂し、DNAと細菌の細胞質の一部が芽胞に分配され、外部には皮層を持つ。遺伝子レベルでは栄養細胞機能に関連する遺伝子の不活性化に伴い芽胞形成遺伝子が活性化され、新たな酵素や代謝物質が産生されるとされている。
芽胞は細菌本体が死滅するような極限状態でも生き延びることが出来、場合によっては百年単位で生存が可能ともいわれる。尚、この状態を休眠型ともいい、動物に例えるなら一種の冬眠状態ともいえるかもしれない。高い防御性を持つと記述したが、具体的に言うと、放射線、乾燥、超高温、超低温、化学物質に対しての抵抗性を持つ。勿論、タイトルの通りエタノールは効かない。芽胞形成菌を不活性化するには121℃で15分間の高圧蒸気滅菌が必要となる。
芽胞の抵抗性にはいくつかの理由があると考えられるが、完全に理解されているわけではない。
芽胞形成菌は芽胞を形成してそのまま冬眠してくれるなら人間にとっては驚異でも何でもないのだが、周囲の状況が増殖に適すると再び発芽し、菌体を形成するという非常に厄介者である。一般的な芽胞形成菌の生活環としては、栄養細胞の分裂・増殖→芽胞形成→芽胞(休眠芽胞)→発芽→発芽後生育→栄養細胞の増殖というサイクルである。
芽胞の基本構造は外側から芽胞殻、コルテックス、コアの順であり、コアは発芽によって栄養細胞に戻る。
発芽は糖分やアミノ酸等の栄養物質がきっかけとなって短期間で誘導され、芽胞は全ての抵抗性を失い通常の栄養細胞と同じになる。発芽後生育段階になるとコルテックスは完全に分解され、コアが栄養細胞に成長して外側の芽胞殻を破って飛び出し、再度分裂増殖を繰り返すようになる。