つねぴーblog@内科専門医

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移転しました。

急性期脳梗塞でADCを撮る理由(T2 shine through)

急性期脳梗塞で拡散強調像(DWI:diffusion weighted image)、ADCを撮る理由

 

まずは、基礎知識の確認から…

◯細胞性浮腫について

正常な細胞では細胞膜にNa+K+ポンプがあり細胞内外でのイオンの輸送を行って細胞内のNaが少なく、細胞内のKが多くなるように調節されている。

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Na-K交換ポンプは細胞小器官であるミトコンドリアで産生されるATPによって作動するが、脳梗塞などで虚血状態になるとミトコンドリアはATPを産生できなくなり、イオンポンプは動作を停止する。すると細胞内のNa濃度が上昇してそれに引き寄せられて水分子も増える(いわゆる細胞性浮腫)。細胞性浮腫によって細胞体積が増加すると水分子が多く存在する細胞外腔のスペースが狭くなり水分子の拡散運動が低下する。また、細胞内においてもイオンポンプ障害でCa濃度が上昇して細胞内小器官の破壊が起こり細胞内水分子の拡散にも制限がかかるようになる。つまり結果としては細胞内でも細胞外でも水分子が動きにくくなる。

MRI拡散強調像では水分子の拡散運動が制限された領域を高信号域として検出することが出来る。

 

【細胞性浮腫で細胞外腔の水分子が移動しにくくなるイメージ図】

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https://radiographica.com/mri-dwi/

  

◯より正確に(定量的に)拡散の程度を調べるADC

  拡散強調画像は細胞内浮腫を描出することが出来るが、全てが急性期脳梗塞を意味するわけではない。これには偽陽性がある。拡散強調画像とは水分子の拡散が制限されている部分が高信号になるわけであるが、より正確に表現すると「拡散を強調したT2強調画像」なのである。よってT2強調画像で高信号領域は水分子の拡散が制限されていなくても拡散強調像で高信号となってしまうのである。

発症から数日経過した脳梗塞巣はT2強調と拡散強調で高信号を示すことがあり、これをT2shine-throughという。拡散制限による高信号(真の病変)かT2高信号によるための高信号(偽の病変)の鑑別のためにADC(apparent diffusion coefficient)が用いられる。ADCは拡散のみを反映した画像であり、”見かけの拡散係数”という意味になる。ADCの意義は拡散強調と比べて定量的な評価が可能で、T2強調画像の影響がないことにある。よって拡散強調像を撮影する際は、ADCも一緒にチェックしてそれが真に陽性なのかどうかを調べる必要がある。 ADCではその表示が黒ほどその部位の拡散が制限されていることを示す。

 

ポイント

脳梗塞診断で拡散強調像のみでは偽陽性がある。

ADC低信号も確認して初めて真の陽性となる。

 

 【脳梗塞の発症経過と画像所見の推移】

脳梗塞発症後は虚血によって細胞浮腫が起こる。細胞性浮腫は水分子の拡散運動が制限されている状況なので拡散強調高信号、ADC低信号となるが、T2強調像では信号変化は見られない。一方、脳梗塞発症の第二病日から、毛細血管の血液脳関門が破綻することにより、血管性浮腫が起こる。血管性浮腫では単位組織あたりの水分量が増加(水分子が自由に拡散運動)するため、T2強調像で高信号、またADCでも高信号となる。

 

尚、急性期から亜急性期では初期に起こった細胞性浮腫が完全にしない状況で血管性浮腫が始まり、両方の浮腫が混在した状況がある。そのような状況では炎症細胞やマクロファージの浸潤んが起こるため、血管性浮腫が生じても拡散の低下(つまりADC低下)は持続する。

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画像参照:https://radiographica.com/apoplexie-graph/