収縮期血圧で心不全の状態を分類する(クリニカルシナリオ)
急性心不全の予後改善には急性期での治療開始が重要と考えられており、救急外来などで簡易に治療方針をすぐに決定できるように収縮期血圧に着目したクリニカルシナリオというものがある。
もちろん血圧は個人差があるため血圧だけで一概に心不全の病態を判断できないが、発症様式や浮腫の程度などと総合的に判断すれば大きくずれることは無いため有用。
CS1-3が血圧別の心不全分類、CS4はAMI、CS5は右心不全
それぞれ簡単にまとめ
◯CS1(クリニカルシナリオ1)
↓CS1っぽいイラスト
急激発症
収縮期血圧140以上
主病態はびまん性肺水腫
全身の浮腫は軽度
心機能は保たれた急性の心充満圧上昇
治療:NPPV、硝酸薬、容量負荷があれば利尿薬
まずは血圧を下げる。ミオコールスプレー2プッシュ。血圧下がらなければミオコールなど硝酸剤の持続点滴で降圧開始。ミオコール単独でも無理ならペルジピンなどカルシウム拮抗薬も同時に併用する。
基本的に浮腫は軽度で利尿剤は不要。
NPPV装着時は初期設定はPEEP6,PS2、FiO2 100%などで開始する、状態見てFiO2は適宜下げていく。
★CS1心不全はなぜ起こるのか?:もともと心機能が低下していて心拍出量が下がっている患者に何らかの心身的ストレスがかかる=交感神経が亢進して血圧が上昇する=後負荷の増大=心臓から血液を送り出しにくくなる=肺水腫の増大
(注1)血圧140以上がCS1だが、140以下でもCS1心不全が起こることもある。もともと血圧が100前後の患者だと血圧120〜130程度でも心不全になることがある。
(注2)血圧が高いからCS1と思い込まない。心電図や採血で心筋梗塞(CS4)の除外をしておく。
◯CS2(クリニカルシナリオ2)
↓CS2っぽいイラスト
症状は徐々に進行し、体重増加を伴なう
収縮期血圧100−140
病態としては全身性浮腫が顕著。肺水腫は軽度。
臓器障害の出現(腎機能障害、肝機能障害、貧血、低アルブミン血症)
治療はNPPV、硝酸薬。容量負荷があれば利尿薬
・心充満圧上昇や全身性浮腫が有り、呼吸困難と体重増加所見が有る時は利尿薬投与。フロセミド静注0.5Aが無難。1A投与で一気に血圧が凹むことがある。
・血圧110以上であれば血圧低下に気をつけつつ硝酸薬も投与(硝酸薬持続投与もしくはニトロスプレー)
★CS2心不全はなぜ起こるか:主病態は全身性の浮腫。もともと慢性心不全の患者が塩分や水分の摂取などによって徐々に全身の水分量が増加する。肺うっ血は少なくCS1のような呼吸困難は少ない。が、全身臓器にうっ血するため多臓器障害が起こりやすい。
◯CS3(クリニカルシナリオ3)
↓CS3っぽいイラスト
収縮期血圧100以下
急激OR緩徐な発症
低心拍出量もしくは心原性ショックが主病態
(多くの患者は進行した終末期心不全の像を呈する)
全身性浮腫や肺水腫は軽度
心拍出量が低下しているので四肢の冷感やチアノーゼが出現、尿量も低下。
治療:体液貯留所見が見られなければ輸液による容量負荷、血圧100以下および低灌流が持続していればカテコラミン製剤投与
◯CS4(=急性冠症候群)
急性心不全の症状、徴候
急性冠症候群の診断
治療:ACSの治療
AMIの対応。詳細は別記事に譲ります。
◯CS5(=右心不全)
・急激または緩徐な発症
・肺水腫はなし
・右室の機能不全
・全身性の静脈うっ血所見
・治療としては、容量負荷は避ける。SBP90以上および慢性の全身性体液貯留が認められる場合に利尿剤を使用。血圧90切っていたら強心薬使用。それでも血圧100以上に改善しない場合は血管収縮薬使用。
★CS5の原因:右心不全は通常左心不全に続発して生じる形となる。左心不全で肺うっ血が進行して肺高血圧に至ると右室に圧負荷がかかり右心不全をきたす。
単独で右心不全をきたす病態としては肺高血圧症、右室梗塞、肺梗塞などがある。
また追記します。。
参考文献)
・ER/ICU診療を極める1救急・集中治療医の頭の中
・循環器内科ゴールデンハンドブック
・http://www.jhf.or.jp/publish/pro/hint/c4/hint002.html
・https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/48/9/48_1107/_pdf