悪性症候群と悪性高熱症の違い
悪性症候群と悪性高熱症は名称が似ていることから混合されてしまいやすいが、異なる概念であるので整理しておきます。
■悪性症候群とは
パーキンソン病患者において治療薬であるL-Dopaを急に中断したり、あるいは抗精神病薬によってドーパミンが突然少なくなることによって発症する。症状としては高熱、精神症状、錐体外路症状、自律神経症状など。
機序は不明であるが、ドーパミン濃度の急激な低下によりドーパミンニューロンの急激な機能低下が考えられる。その結果、筋小胞体からのカルシウムの遊離が促進し、全身の骨格筋の収縮、乳酸の産生、アシドーシス、体温の上昇が起こる。
治療としてはL-dopaを徐々に再開する。抗精神病薬が原因なのなら投薬の中止。また、筋小胞体からのカルシウムの遊離を阻害するダントロレンナトリウム(筋弛緩薬)で治療することも可能である。
■悪性高熱症とは
悪性高熱症は遺伝疾患で、素因をもつ者が揮発性麻酔薬やサクシニルコリンに曝されることにより発症する。
病態としては、骨格筋の筋小胞体にあるカルシウム放出チャネルが遺伝子変異しており、通常よりもカルシウムを大量に放出しやすい性質となっている。よって素因者が麻酔薬に曝露されると、筋細胞内のカルシウム濃度が異常に高まり、筋肉の収縮が持続してしまうのである。開口障害が初期徴候に続き、頻脈、体温上昇など代謝亢進状態となる。
発生頻度は小児で1.2万人に1人、大人で4万人に1人と非常にまれな疾患であるが、意識障害、腎不全など重篤な後遺症を残す可能性があるので、事前に家族へしっかりと問診をとることが重要である。
なお治療としては、吸入麻酔薬の中止に加えて筋弛緩薬であるダントロレンナトリウムの静注を行う。
☆まとめると
悪性症候群:L-dopaの急激な中断や抗精神病薬によって起こる
悪性高熱症:遺伝的素因を持つものが揮発性麻酔薬で発症。
共通点としてはともに筋小胞体からのカルシウム放出が亢進し、筋肉が硬直する疾患。治療薬としてダントロレンナトリウム。