つねぴーblog@内科専門医

アウトプットが趣味です。医学以外の事も投稿するやもしれません。名前は紆余曲折を経てつねぴーblogに戻りました

移転しました。

ウイルスに対する免疫応答

細菌に対する免疫応答
http://d.hatena.ne.jp/tsunepi/20121027/1351324023の続き

ウイルスは細菌よりも手ごわい


細菌というのは自分で細胞を持っていて自立した(立派な?)生き物であるが、ウイルスというのは自分の細胞を持たないで他の生物の細胞に寄生して生きていくことしかできないのである。
生き物の定義と言われると一般的には
・自己増殖できる
・子孫を残せる
・栄養を代謝できる
などがあると思うが、ウイルスの場合、単独では増殖できないのである。よって、通常ウイルスは生物とはいわない。どんな形をしているのかというと、カプセルのような粒子にDNAやRNAが入ってるだけという細菌に比べるとずいぶん単純な作りになっているのである。しかも大きさも細菌の1000分の1ぐらいで非常に小さい!


話を戻すとウイルスというのはあくまで細胞に寄生するので、ヒトの細胞の中で、ヒトの増殖機構を勝手に借りてウイルスのDNAやRNAを増殖させてしまうのである。一方、細菌は栄養分のあるところなら自分の増殖システムで勝手に増殖していく。
まとめると
細菌・・・栄養分があれば自分で増殖できる。
ウイルス・・・細胞があれば寄生して細胞の増殖機構を借りて増殖できる。
ということである。

前回のエントリーでは細菌のことを扱ってきたが、これらは全て体内に侵入しているけれども、細胞の中にまでは侵入されていなかった。しかし、ウイルスの場合は、ヒトの細胞の中にまで踏み込まれてしまうので、今まで説明してきた免疫細胞達も闘いづらい。細菌の場合はケモカインという物質を放出してマクロファージや好中球が現場に駆けつけることが出来たが、ウイルスの場合、人間の細胞に入り込んで隠れてしまうので抗体も届かない。さぁ、こんなやっかいな敵とどう戦えばいいのだろうか・・・。



ウイルス感染細胞との初陣


細菌が侵入した際に最初に出動するのが細菌のケモカインを感知するマクロファージと好中球という話をしたと思う。ウイルスの場合は少し違い、マクロファージ・樹状細胞そしてとナチュラルキラー細胞(NK細胞)という新キャラが出動する。

ここでの役割分担は巧妙に出来ている。
まず、マクロファージや樹状細胞の場合は細胞の外を漂っているウイルスを食べる。
ウイルスに感染し待ったウイルス感染細胞はNK細胞が細胞ごと攻撃を仕掛けるのである。


細菌の場合は、マクロファージと好中球が頑張っても結局防衛ラインを突破されて、最終的に抗体という兵器で細菌をオプソニン化して駆逐することが出来たという話をした。ウイルス侵入の場合も同様で、最初のマクロファージとナチュラルキラー細胞だけでは防ぎきれないのである。そう、彼らは時間稼ぎをしているのである。魔神ブウ戦で悟空が元気玉をためているときに闘っているベジータのように・・・

一体何を待っているのかというとキラーT細胞という細胞を殺すために生まれてくる細胞殺傷性細胞の誕生を待っているのである。

T細胞にはヘルパーT細胞とキラーT細胞があるという話をした。ヘルパーT細胞は通報を受けてTh2細胞に分化してB細胞が形質細胞になれるように支援しているのに対して、ウイルス感染というよりやばいにおいてはB細胞に任せているだけでなく、キラーT細胞という武装警官が細胞を殺しに行く。ちなみに、マクロファージとナチュラルキラー細胞が時間稼ぎをしなければならないほどキラーT細胞の登場は遅いので「遅延型反応」なんて言われたりします。


これまでの記事でナイーブヘルパーT細胞の話が出てきました。これはB細胞、マクロファージ、樹状細胞などが敵を貪食して、通報、つまり抗原提示してくるとTh2細胞に分化し、サイトカインによってB細胞を形質細胞へと成長させる役割があると説明してきた。つまり、この警官はあくまでB細胞の成長を支援して、IgG抗体ミサイルで敵を目立たせて
オプソニン化)、好中球がやっつけてくれるのを見ているだけだったのだ。しかし、敵がウイルスとなると、この警官も自ら出動して直接ウイルス感染細胞に攻撃をするのである。ちなみに、このようにキラーT細胞が直接ウイルス感染細胞を殺しにかかることを「細胞性免疫」という。一方で、B細胞が抗体を作り出して防御しようとするシステムを「体液性免疫」という(抗体は体液にのって異物の所までいくからこう呼ばれる。そのままですけど。。)。

キラーT細胞はいかにしてウイルスを認識するか

さぁ、前回マクロファージやナチュラルキラー細胞が時間稼ぎをしてくれるという話をしたが、彼らだけでは結局ウイルスの全てを倒すことは出来ない。キラーT細胞の出動が必要なのだが、一体どうやってウイルス感染細胞を認識することが出来るのだろうか。
細菌の侵入の場合は貪食細胞が食べて断片をMHCⅡ分子と一緒に提示してくれるという話をした。実はウイルス感染細胞も同じようにキラーT細胞に教えてくれるのである!「私の所にウイルスが入ってきました!もう私は駄目です!もろとも殺してください!」的な感じでキラーT細胞に最後のメッセージを送る。
ちなみにヘルパーT細胞にメッセージを送る時はMHCⅡが必要だったが、キラーT細胞にメッセージを送る際はMHCⅠという違うタイプの分子も一緒に提示する必要がある。それをキラーT細胞受容体が認識すると、切り捨て御免!と感染細胞を殺してくれるのである。

ここで少し整理をしておきましょう。

MHCⅡはヘルパーT細胞に通報するために必要な分子。通報することが出来るのは貪食能力を持った樹状細胞、マクロファージ、B細胞といった抗原提示細胞だけ。
つまり、この3つの細胞しか持たない非常にプライスレスな分子なのである。

一方、MHCⅠというのはウイルスに感染した細胞がキラーT細胞に通報するために必要なので、ウイルスに感染しうる全ての有核細胞が持っているのである。つまり基本的には誰でも持ってます。

さて、ただ問題なのは暗殺を請け負ってくれるキラーT細胞の数が少ないのである。であるから、B細胞の時と同じように増殖する必要があるのだ。B細胞はあらかじめあらゆる種類の抗原に対応できるように様々なタイプを用意しておいて、敵に応じてそのタイプだけ増殖するという話をした(スライム、ゴーレム、ドラゴンの下り)。

しかしながら、キラーT細胞の場合自力で増殖することが出来ずに支援が必要なのである。誰の助けを借りるのかというと、ここでもヘルパーT細胞が出てくるのである!

細菌の場合と同じようにマクロファージと樹状細胞はウイルスを食べて(ウイルス感染細胞を食べるわけではない)、その断片をMHC2分子に乗せてナイーブヘルパーT細胞に知らせるのである。

ここで凄く重要な話になるのだが、
細菌を食べたとの通報はナイーブヘルパーT細胞をTh2に分化させるが
ウイルスを食べたという通報はナイーブヘルパーT細胞をTh1に分化させるのである。
Th2細胞はIL4、IL13というサイトカインでB細胞を形質細胞にして抗体を産生させて異物を抗体漬けにして目立たせて好中球に貪食してもらうためであった。
Th1細胞はIL2やIFN―γといったサイトカインを放出してキラーT細胞を増殖・活性化することが出来るのである。

つまり、ナイーブヘルパーT細胞は「細菌かウイルスか」に応じて進路を変えて臨機応変な対応を取るのである!!



こうしてキラーT細胞は大量生産され、ウイルス感染細胞を見事に破壊しきることが出来るのである!!しかし、まだ一件落着と言うには時期尚早である。細胞に感染してないウイルス、つまり細胞外を漂っている残党がいるのでそいつらを始末しなければならない。細胞外のウイルスをマクロファージや樹状細胞が食べてくれるという話をしたが、実はTh1細胞が放出するIFN―γはマクロファージの貪食能力を強くしてくれるのである。すると、たちまち活性化マクロファージは残党兵も一匹残らず倒してくれて無事に終戦を迎えることが出来るのである。