つねぴーblog@内科専門医

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熱中症で死に至るのは何故か?

熱中症で死に至るのは何故か?


熱中症とは高温環境下で、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体内の体温調整機能が破綻し、時として死に至ってしまう病態である。熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病などの分類もあるが、熱中症という場合はこれらの総称である。



日本神経救急学会によると熱中症は次の3つに重症度分類されている。

I度(軽症 日陰で休む 水分補給)
II度(中等症 病院にかかり補液を受ける必要がある)
III度(重症 救急車で救命医療を行う医療施設に搬送し入院治療の必要がある)

熱中症の診断
熱中症というのは【暑熱環境に居る、もしくは居た後に】起こる病態である。3主徴として意識障害、発汗停止、体温40度以上がある。

もちろんこれらの3主徴があれば重症であるのは間違いないが、そうでなくても早期に治療介入することが予後を改善するので他の症状にも注意を払う必要がある。起こりうる症状は非常に多彩であるが以下のものが挙げられる。

めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、こむら返り、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等など


熱中症は体温調節機構の破綻により起こる


熱中症になると脳の温度調節部位が制御できなくなる。人は間脳視床下部と呼ばれる脳の領域で体温をコントロールしている。外に出て寒いなと思えば、血管を収縮させて熱が外に漏れないようにするし、一方で暑いと感じれば発汗を促進させて皮膚表面を濡らすことによって発熱を促すのである。しかし、熱中症ではこの視床下部ごとやられてしまうので、発汗による体温を下げるという機能が失われてしまい、体温は40度を超し、炎天下にいても汗も書くことができずにますます体温が上昇してしまうのである。



心臓が弱い人が熱中症になりやすい理由

体内の熱は血液が全身を循環することによって冷却している。毛細血管で血液は隅々までいきわたり、外界の空気に近づくことによって冷まされて、また静脈を経て心臓に戻っていくのである。心臓というのはいわばポンプの役割をしているので、狭心症や心不全といった心臓の病気のある人だと上手く全身に血液を送れない(=熱の冷却ができない)ために熱中症を発症しやすくなってしまう。他にも降圧薬を飲んでいる高血圧患者も同じような理由で危険である。血圧を下げるということは血液の流れをゆっくりにしているとも言えるので体温を冷まさなければならない環境下においては危険な状態を作り出してしまう。


アルコールを飲むと熱中症は重症化する

体温の冷却において心臓の働きが重要であると述べたが、それに加えてその心臓によって送られる血液の量(循環血液量)も非常に重要である。血液の量が減っていれば全身を巡って体内の熱を発散させることが出来なくなってしまう。血液の量が減るというのはすなわち脱水の状態である。
炎天下にいて大量に汗をかいたらその分の水を外から補給しなければならない。ただ、要注意なのはビールなどのアルコールを飲むと利尿作用のために尿がでてしまい体内の循環血液量はますます減ってしまうので、熱中症が余計に増悪してしまう危険性が有る。熱い時はアルコールは我慢して水をのむようにするべきである。


熱中症による多臓器障害

体温が上昇して汗をかくと、前述のとおり血液の量が減ってしまう。血液の濃度(粘稠度)が濃くなってネバネバしてしまうとサラサラだった頃に比べて心臓は力いっぱい押さないと血液を全身を巡らすことができなくなる。徐々に心臓の負担が増え、やがては中枢の温度調節機能が保てなくなり全身の温度が上昇し始めるのである。

細胞レベルでは40度以上になると体内の酵素の活性が低下し始め、ミトコンドリアの電子伝達系などのエネルギー産生系の酵素も障害されるために全身の障害が一気に進むようになる。心臓、中枢神経、腎臓、肝臓と多臓器わたって機能が低下し、更には腸管粘膜のバリア機能が血流低下により障害されれば腸内の細菌や毒素が腸管バリアを通過できるようになってしまい敗血症と同様の状態になってしまう。