細胞融合の原理
隣接している細胞間の細胞膜が消失し、一つの細胞になることを細胞融合という。
実際に細胞が融合することなんてあるのだろうか。
意外にも自然界では細胞融合はなくてはならない現象で、たとえば受精は自然に起こる細胞融合の一例である。
他にも骨格筋は、多数の筋芽細胞同士が細胞融合して生じたものである。(その証拠に骨格筋は多核細胞である。)
人工的に細胞融合させることも可能で、ポリエチレングリコールという界面活性剤で処理する方法やセンダイウィルスに感染させる方法、電気刺激を与える方法などがある。
植物細胞の場合、次のような手順で細胞融合が行われる。
まずペクチナーゼで植物細胞の細胞壁通しを分離させる:細胞壁同士がペクチンという物質でつながっているので、まずはばらばらにする。
次に、セルラーゼで処理して細胞壁をもたない細胞(プロトプラスト)をつくる。植物細胞の細胞壁はセルロースで出来ているのでセルラーゼで分解することによって細胞膜がむき出しの植物細胞を作ることが出来る。
そして、ポリエチレングリコール HO−(CH2−CH2−O)n−H で処理すると、プロトプラストどうしが融合して一つの細胞になる。
(何故ポリエチレングリコールで細胞の融合が起こるのかはまだ完全に明らかにはされていないが、おそらくPEGによって水分子が奪われることで脂質2重膜の内側の疎水的相互作用が不安定になるからと考えられている。)
細胞融合で生じた細胞を組織培養すると、自然界では交雑できないような異種間の雑種植物を容易に作ることが出来る。
たとえばジャガイモとトマトの細胞を融合させて作った雑種植物をポマトなんていう話は有名である。
ポリエチレングリコールで処理し、ポテトとトマトのプロトプラストを融合させて、細胞壁を再生させる。
それによりできた雑種細胞を培養、分化させて植物体にするという流れである。これでポテトとトマト両方の遺伝子をもった植物ができるのである。
いったいどんな味になるのであろうか。トマト味のポテトなのか、それともポテト味のトマトなのだろうか・・・とか思うかもしれない。
だが実は、ポテトとトマトの味が混ざってしまうのではなく、ポマトは地上にはトマトが、地下にはジャガイモがというように別々に育つのである。もともとはトマトもポテトも一挙両得に育てようとしたわけではなく、暖地性のトマトにジャガイモの耐寒性を持たせる目的で開発されたようだ。
しかし、実際にできたトマトは実が小さく、ジャガイモも親指くらいの大きさのものしか穫れず、食用にはならなかったらしい。植物が実をつけるには多くの栄養が必要とされるが、一本に2種類の実をつけるとなると、どちらも十分な栄養がとれず、未来の植物と言われたポマトは姿を消していった。
追記
☆細胞融合を用いないポマトの作り方
厳密には細胞融合と言えないかもしれないが、ジャガイモの根っこにトマトの茎を接ぎ木しても2週間ほどでトマトとポテトの融合体を作り出すことが出来るようです。この方が細胞融合したものより立派なポマトになるのだとか。味は微妙らしいが・・・。
☆細胞融合のメリット
遺伝子組み換えに較べて一気に大量のDNAを移動させることが出来る。