慢性心不全における輸液の選択
◯救急外来に慢性心不全の患者が来た場合
慢性心不全の患者が何らかの主訴で救急外来を受診された場合、急性増悪が疑われるようなケースであればとりあえず採血・ルートキープは行うことになる。そして採血結果が判明する前にとりあえず何らかの輸液をオーダーしないといけないのが悩ましいところではあるが、
ポイントは2つ
1,何を点滴するか
2,どのぐらいのスピードで点滴するか
最も無難なのは腎機能も低下していることを考えてカリウムフリーの輸液製剤(ソルデム1号等)。そしてスピードは一時間あたり20mlのペースで(=24時間で480mlの計算)
◯入院後の輸液はどうするか
1、まずNaの量を考える。
Naと水分量は密接な関係がある。血漿浸透圧を決める因子の大部分はNaが関与しており、Naをたくさん投与すればするほど血中水分量も増える。
排泄される尿量が600-1200ml程度の場合、排泄されるNa量はおよそ50-80mEqであり、おおよそ生理食塩水500mlに含まれるNa量と同じぐらいになる。更に言い換えれば、維持液であるソルデム3号液(Na35mEq/dl)3〜4本分ぐらいのNa量となる。
★平均的な一日の尿中Na排泄量=生理食塩水500ml中のNa量=ソルデム3A液500ml3−4本分のNa量
↑の表は代表的な輸液製剤の組成である。(いずれも1LあたりのmEq)
実際にどれを選択するかは病態によって異なるが、心不全の場合は基本的にはNaを入れすぎると肺うっ血をきたしてしまうので救急外来で行われるように”とりあえず生理食塩水で”という選択肢は脱水を認めるとき以外は使えない。
・簡単にまとめると
1,高度脱水や出血、血圧が低い場合など
→Naをできるだけ補充したいから生理食塩水や乳酸リンゲル液など(Na130mEq以上のもの)
2,脱水気味患者
→Na70〜90を補充する。ソルデム1号液などが良い適応。
3,特に脱水や血圧低下ない心不全患者
→Na35-50mEqの維持輸液を用いる。ソルデム3A等。
◯入院後、どれだけのペースで投与するか
慢性心不全患者の場合、肺うっ血を起こしてることも多い(+入院時に肺うっ血が起きてなくても心機能が悪ければ容易に肺うっ血を起こす)ので輸液の量は通常よりやや少なめにする。体重にもよるが一日1000ml〜1500ml程度(1時間あたり40ml〜60ml程度)が無難。
2,続いてKをどうするか
一日の尿量が600-1200ml程度の場合、一日に排泄されるK量は50Eq程度。
上の表を見れば分かる通り、ソルデム3号などの維持液にはKが20meq/l入っているのでソルデム3号500mlを4本投与するとKは40mEqほどになる。絶食患者であれば一日の投与量としてはこれが最低ライン。更に慢性心不全であれば利尿剤でカリウムが低下しやすい状況であるので適宜補正する。
K投与で守らないといけないポイントは↓の通り。
1Lで40meq以下なので、Kの入っていない生理食塩水500mlで考えるとそこにKCL20ml(k20mEq)を混合注射するとほぼ1Lあたり20mEqの濃度になるので投与可能である。スピードに関してはKCL20mEqを混注した生理食塩水500mlを1時間以上かけて投与すれば大丈夫ということになる。
今はKフリーの生理食塩水での話をしたが、Kの入っているソルデム3Aなどで考える時はもう少し条件が厳しくなる。20mEq/L入っているのでソルデム3A500mlにはKが10mEq入っている。ここにKCL20meqを混合注射すると30mEq/0.5Lとなる=60mEq/Lとなるので濃度上限を超えてしまう。
ソルデム3A500mlにKCL20meq/20mlを入れるなら半量の10meq/10mlのみを入れる。すると20meq/0.5Lの混合溶液=40mEq/Lとなるので濃度制限40mEq/L以下となりOKである。