細菌性肺炎に対する治療薬の選び方
【細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別】
まず、治療しようとしている肺炎が細菌性肺炎であるかどうか判断が必要。以下の6項目で4項目以上満たせば非定型肺炎疑い、3項目以下であれば細菌性肺炎疑いである。(感度78%,特異度92%)
・60歳未満(細菌性肺炎では高齢者が多い)
・乾性咳嗽/頑固な咳
・基礎疾患が軽微
・痰がない(細菌性肺炎では膿性痰が特徴的)
・白血球が10000/uL以下(細菌性肺炎では白血球上昇)
【肺炎の重症度】
肺炎の重症度を入院適応の有無、基礎疾患の有無などで4つに分けて抗菌薬を選択していく。
1,入院不要・基礎疾患なし
2,入院不要・基礎疾患あり
3,一般病棟への入院が必要な場合
4,ICU入院が必要な場合
入院の適応については以下のADROPで評価する。
入院基準は以下5項目で1〜2つ満たせば外来or入院。3つで入院。ICU入院は4つ以上で考える。
Age(年齢):男性70歳以上、女性75歳以上
Dehydration(脱水):BUN21mg/dl以上
Respiration(呼吸):SpO2が90%以下(PaO2が60Torr以下)
Orientation(意識):意識障害あり
blood Pressure(血圧):収縮期血圧90mmHg以下
< 外来での細菌性肺炎に対する治療戦略>
原因菌が判明していない段階ではエンピリックに治療開始(出来るだけ早急に)。
起炎菌が同定されたらすみやかにスペクトラムを絞った抗菌薬に切り替える。
原因菌として多いものは
肺炎球菌
ヘモフィルスインフルエンザ菌
モラクセラ・カタラーリス
の3つ。基本的にはペニシリン系が第一選択となる。
アメリカではマクロライド系も第一選択で用いられることがあるようであるが、日本の肺炎球菌のほとんどがマクロライド耐性を持っているため使用しない。
1、入院不要、基礎疾患なし
耐性菌予防および有効性の観点からβラクタマーゼ阻害剤配合のペニシリン系を用いる。
【処方例】
・オーグメンチン®
(=CVA/AMPC(クラブラン酸・アモキシシリン)経口
or
・ユナシン®
(= SBTPC:スルバクタムナトリウム(SBT)とアンピシリンナトリウム(ABPC)を1:2 の比率で配合したペニシリン系抗生物質製剤)
2,入院不要、高齢者or基礎疾患あり(COPD、糖尿病、心不全、悪性腫瘍など)
組織移行性の観点からレスピラトリーキノロンの使用を考慮する。
レスピラトリーキノロンとは…
”呼吸器組織(上気道も含む)への移行が良好で,ほとんどすべての呼吸器感染症起炎菌に対する抗菌力を有する,特にペニシリン耐性菌(PRSP)を含む肺炎球菌への抗菌活性が強化されたニューキノロン系抗菌薬”
【処方例】
・ジェニナック®(GRNX=ガレノキサシン)
…ペニシリン耐性菌を疑う場合
or
・アベロックス®(MFLX=モキシフロキサシン)
…特に腎機能低下患者へ
GRNX、MFLXは抗菌力、PK-PDの面から最も優れている
or
・グレースピッド®(STFX=シタフロキサシン)
…緑膿菌や嫌気性菌も想定する場合
or
・クラビット®(LVFX=レボフロキサシン) 経口
高齢者など安全性を考慮する場合
3,一般病棟への入院が必要
原因菌としてはやはり肺炎球菌、ヘモフィルスインフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスを念頭に置く。ペニシリン系やセフェム系を高用量、そして点滴で治療を行う。
ユナシン®
一般名:スルバクタムアンピシリン(SBT/ABPC) 点滴静注
or
セフォタックス®
一般名:セフォタキシム(CTX) 点滴静注
or
ロセフィン®
一般名:セフトリアキソン(CTRX) 点滴静注
4、ICU入院が必要
・緑膿菌のリスクなし
→上記の3と同じ治療。ユナシン®など
・緑膿菌リスクあり
(緑膿菌のリスクとは過去一ヶ月以内に7日以上の広域抗菌薬使用、ステロイド使用、低栄養、好中球減少など)
→チエナム®(イミペネム水和物・シラスタチン)
+
シプロキサン®(シプロフロキサシン)(←レジオネラもカバーするため)
参考文献
・JAID/JSC 感染症治療ガイドライン ―呼吸器感染症―
・UCSFに学ぶできる内科医への近道
・絶対わかる抗菌薬はじめの一歩