めまい患者への対応@救急外来
めまいの鑑別と検査(ERメモ
ERでのポイント(中枢性と末梢性の鑑別)
中枢性のめまいと末梢性のめまいの鑑別が何より大事。まずは中枢性を否定するというスタンスで。70歳以上で曖昧なめまいは違うとわかるまでは中枢性を疑う。
中枢性のめまいはめまい以外の神経症候を伴う(構音障害、嚥下障害、複視、手足のしびれ、顔や口周りのしびれ、脱力、バレー徴候など)。この他、突然の発症、片側に倒れそうになる(傾く)、激しい頭痛なども中枢性めまいの重要なキーワード。中枢性めまいでは眼振が縦方向になるという特徴も。
【脳幹の血管障害】
ほぼ100%めまい以外の神経症状を伴う。脳幹は範囲が狭いので近接する感覚や運動の神経が一緒に障害される。
【小脳の血管障害】
小脳上部の血管障害は構音障害や手足の小脳性運動失調を伴う。このため、診断は比較的容易。小脳下部の血管障害は体幹失調が唯一の神経症状になる。よって歩行の障害程度を調べて診断。
【ワレンベルグ症候群】
構音障害と感覚障害をほぼ必発する。
◯まずはバイタル
めまい診療においてもバイタルは大事。
血圧が高い→脳血管障害によるめまいを示唆。脳梗塞などを起こすと脳への血液循環を保とうと血圧は高くなり、代償的に徐脈になる。
血圧が低い→徐脈性不整脈や大動脈解離などによる前失神、あるいは消化管出血などによる起立性低血圧を示唆
BPPVや前庭神経炎などの末梢性めまいの場合はバイタルに大きな変動は見られない。
◯めまいの問診「OPQRST+3A」を聞く
O:Onset(発症様式)
P:Position/Prodrome(発症時の姿勢、前駆症状)
Q:Quality(めまいの性状)
R:Risk(脳卒中のリスク)
S:Severity(重症度)
T:Time(持続時間)
A:Aggravation factor(増悪因子)
Alleviating factor(寛解因子)
Associated symptoms(随伴症状)
O:Onset(発症様式)
突然発症→危険なサイン(脳出血、脳梗塞)をまずは考える。末梢性めまいでは良性発作性頭位めまい症も鑑別に。
P:Position/Prodrome(発症時の姿勢、前駆症状)
何もしなくても生じる→危険なサイン(中枢性めまい疑う)
頭を動かした時に発症し、安静時に消失→良性発作性頭位めまい症
立ち上がった時、排尿後、排便後に生じる→起立による前失神
Q:Quality(めまいの性状)
回転性(天井がぐるぐる)→BPPVなど末梢性めまい
浮遊性→中枢性めまい
R:Risk(脳卒中のリスク)
脳卒中による中枢性めまいは否定されるまで考えなければならない。
リスク因子:肥満、高血圧、DM、脂質異常症、喫煙歴、飲酒歴、腎不全、心房細動
S:Severity(重症度)
患者の訴えと疾患としての重篤さは異なる。良性発作性頭位めまい症でも非常に強い症状を訴えたり脳卒中でも訴えに乏しいこともあるので注意。
むしろ惑わされてはならない。
T:Time(めまいの持続時間)
1度の発作が1分以内:良性発作性頭位めまい症
数分〜数時間:TIA、椎骨脳底動脈循環不全症
20分〜数時間:メニエール病
数日間:前庭神経炎
常に持続:中枢性、薬物中毒、代謝異常、精神疾患など
3A:Aggravation factor(増悪因子)、Alleviating factor(寛解因子)
頭を動かすと生じ、同じ方向を向いてると楽→良性発作性頭位めまい症
Associated symptoms(随伴症状)
嘔吐→どんなめまいでもありうる
神経症状→中枢性めまい
蝸牛症状あり(耳鳴り)→突発性難聴、メニエール病
蝸牛症状なし→良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎
◯既往歴
・最近の風邪(先行感染は前庭神経炎を半数に認める)
・耳鼻科疾患の既往(繰り返してたらメニエールかも?)
・精神疾患・うつ病の既往(心因性のめまい)
◯内服歴
薬がめまいの原因となっていることは少なくない。漏れ無く聞き出す。
主な原因薬剤…
【中枢神経作用薬】抗精神病薬、抗うつ薬、パーキンソン病治療薬、麻薬、筋弛緩薬
【循環系作用薬】降圧薬、利尿薬、血管拡張薬、ドーパミン作動薬など
その他シルデナフィルや抗コリン薬などの泌尿器系薬
◯身体所見
【眼振】
めまい以外の神経症状を伴わない末梢性のめまいは眼振が重要になる。末梢性のめまいは方向固定性水平性眼振となるが、良性発作性頭位めまい症は特異的なめまいとなる。
BPPVでは懸垂頭位で患側方向への回旋性眼振が出現する。また、座位に戻すと反対側(健側)への回旋性眼振が出る。また臥位で方向交代性の水平性眼振になる(右に頭を倒すと右の眼振、左向きになると左向きの眼振。あるいは頭を右に倒すと左向きの眼振、頭を左に倒すと右向きの眼振など)。いずれにせよ頭が右向くか左向くかで眼振の方向も正反対になるのが方向交代性眼振。
前庭神経炎、メニエール病では右下頭位でも左下頭位でも同じ方向の眼振が出る。下図は右前庭神経炎の例でいずれの頭位でも患側から健側への眼振となる。
イラスト参照*1
◯救急外来での対応
中枢性めまい疑ったらすぐに神経内科コンサル。
そうでなければ…
病歴的にBPPVが疑われたらDixhallpike試験を行う。 Dix hallpike test:座位で頸部を45度左右のどちらかに回旋させてからそのまま臥位にさせる。頸部が伸展したときに眼振が出現すれば回旋側が患側となる。病歴からBPPVが疑われてもDix hallpike試験の陽性率は50%以下というデータもあるため試験が陰性だからといって否定できるものではない。(受診時には既にBPPVが治っているという可能性もある)
前庭神経炎への対応:
蝸牛症状を伴わない末梢性のめまい。強いめまいが2~3日続いて、二週間程度で徐々に治る。めまいの一週間ほど前に先行感染がないか問診する。
症状が強ければ急性期のみ、抗ヒスタミン剤、制吐薬、抗不安薬など処方。
メニエール病について:
難聴や耳の閉塞感などの蝸牛症状を伴う。繰り返す。女性に多い。めまいの持続時間は数十分~数時間。聴力低下は低音域に強く生じる。
◯血ガス
めまいを主訴の患者に血ガスは中々取られないことも多いが貧血、電解質以上、低血糖、CO中毒などを瞬時に除外できるので有用。
◯心電図
明らかに末梢性めまいが疑われれば必要ないが、気を失うようなめまいなどの場合徐脈性不整脈の可能性もあるので心電図は必要。
◯頭部CT
症状、現病歴から中枢性めまいが疑われたら撮影する。末梢性めまいが疑われてベッド安静にて軽快しても歩くことは難しいなどの場合も頭部CTはとる。
◯治療
中枢性めまい→神経内科コンサルし原因疾患の治療
末梢性めまい→
BPPVであればEpley法
前庭神経炎、突発性難聴であればステロイド
それでも効果がなければメイロン®、アタラックス®、アデホス®、セファドール®なども考慮(これらの薬はめまい治療で頻用されるがちゃんとしたエビデンスはない模様)
また追記、更新します。
◯帰宅か入院か
帰宅可能なのは中枢性めまいが否定されるのが大前提。
末梢性めまいの疑いが強く、歩行可能、食事摂取可能ならば帰宅可能。
BPPVが強く疑われても歩けない食べれない患者を無理に帰さない
また追記、更新します。
<おまけ>
めまいの分類
回転性めまい:頭がぐるぐるまわるようなめまい
→脳梗塞などの中枢性めまいやBPPVのような末梢性のめまいを疑う
失神前めまい:気が遠くなるようなめまい
→出血や循環不全などによる貧血を疑う
動揺性めまい:体がゆらゆらするようなめまい
→どんな原因でもありうる
*1:急性めまいの診断プロセス | めまいプロ - めまい治療に携わる皆さまへ