腹痛の鑑別と検査(ERメモ…書きかけ…)
主訴が腹痛の患者が来たら…
腹痛は原因となる疾患が多く、またきれいにアルゴリズムでの鑑別も難しい。
緊急性の高い疾患をまずは除外というスタンスが望ましい。
すぐにエコーに走らず医療面接しっかりしてしぼる。
【緊急性の高い腹痛】
上腹部:上部消化管穿孔、急性膵炎、胆石疾患、急性虫垂炎
下腹部:下部消化管穿孔、急性虫垂炎
腹部全体:腸閉塞、腸管虚血、腹部大動脈瘤破裂
女性:異所性妊娠、卵巣捻転
・問診で聞くべきこと=痛みのOPQRSは大変便利
O(Onset):発症様式
P(palliative/provocative):増悪・寛解因子
Q(quality/quantity):症状の性質・ひどさ
R(region/radiation):場所・放散の有無
S(associated symptom):随伴症状
T(time course):時間経過
Q、発症様式
突然発症(突然激痛)=消化管穿孔、血管疾患(腹部大動脈瘤、腸管虚血)
急性発症(10分前後で激痛に)=急性膵炎、結石疾患
緩徐発症(数時間で徐々に痛く)=急性虫垂炎、腸閉塞など
Q、持続痛or間欠痛
痛みが間欠的であれば腸管蠕動によるものを示唆しており、腸閉塞や腸炎などが疑われる。
Q、その他の随伴症状
多量の下痢であれば腸炎を示唆し、外科的な緊急度は低い。
一方で多量の水様性の嘔吐は腸閉塞を示唆する。
Q、発症からの時間
発症時からの激痛なら緊急性が高い。
Q、部位
部位である程度絞れる。
上腹部痛=上部消化管穿孔、急性膵炎、胆石疾患、急性虫垂炎
下腹部痛=急性虫垂炎、下部消化管穿孔
股関節、鼠径部、臀部の痛みでも急性腹症のことは多々ある。
【身体診察のポイント】
・腸雑音がはっきり聞こえたら穿孔などによる腹膜炎は否定的。が、腸管虚血の初期では超雑音が低下しないこともある。
・消化管穿孔はいつも板状硬とは限らない。
・高齢者+激痛+腹膜炎のサイン無し+高血圧の既往
→大動脈瘤破裂→エコーで調べる
・やせた高齢女性の腹痛
→腸閉塞、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアを疑う。いずれもなければ閉鎖孔ヘルニアを疑い、腹部CTを鼠径部ぐらいまでオーダー。
・虫垂炎(外科医コンサルを躊躇しない)
2割は腹膜刺激症状なくて診断難しい。非典型例も少なくない。
右下腹部痛ならば常に虫垂炎をD/Dに考えるべき。
心窩部痛なら初期の虫垂炎の可能性も考える。
【腹痛の検査】
軽症な腹痛は最初から鑑別には挙げない。
基本的には重篤な疾患を想定して検査を進めていく。
心窩部痛+冷え汗→まず心電図!
・急性腹症で取るべき3枚のX線
1:Free airを見逃さないために立位胸部正面
2:泌尿器科、婦人科も考慮してKUB(Kidney,Ureter and Bladder)の略で腎臓・尿管・膀胱を含む腹部単純撮影で腹部臓器の異常、結石などの診断の為に。)
3:腸閉塞のニボーを探すべく立位腹部正面。
消化管穿孔を疑ったら立位胸部正面X線(腹部ではわかりにくい!)+CT
・画像検査、確定診断
胆石症、虫垂炎、妊娠可能女性→エコー
それ以外→腹部CT
各論
〜虫垂炎〜
【身体所見】
・右下腹部に局在した圧痛、痛みが心窩部から右下腹部に移動
・右下腹部の圧痛(McBurney点):臍と右上前腸骨棘の線分を三等分して外から1/3の点であり、虫垂炎の圧痛が最も目立つ場所である。
マックバーニー点のイラスト参照*1
・食欲不振、悪心
【血液検査】
WBC、CRP上昇、左方移動
【虫垂炎の診断スコア:MANTRELS】
心窩部から右下腹部への痛みの移動 1点(Migration)
食思不振もしくはケトン尿 1点(Anoxia/acetone)
悪心・嘔吐 1点(Nausea/vomiting)
右下腹部痛 2点(Tenderness in RLQ)
反跳痛 1点(Rebound pain)
37.3℃以上の体温上昇 1点(Elevation of temperature)
白血球数10,000/μL以上 2点(Leukocytosis)
白血球の左方移動 1点(Shift to the left)
4点以下では虫垂炎は否定的、5点以上は虫垂炎の確率が高い。7点以上では感度は76.3%、特異度は78.8%との報告もある。
【腹部エコー】
虫垂炎のエコー所見参照元*2
エコーでのポイントは
・マックバーニー点で総腸骨動脈を同定し、そのすぐ腹側を探す
・圧迫で潰れない、蠕動のない管状構造
・7mm以上は腫大と考える
それでも診断できなければ→腹部CT
虫垂炎の造影CT画像*3
〜腸閉塞〜
開腹手術の既往のある患者が腹痛、悪心、嘔吐を訴えたら腸閉塞は考えねばならない。(腹腔内癒着が原因の単純性腸閉塞)
腹腔鏡手術の既往のある場合は内ヘルニアが原因となった絞扼性腸閉塞の確率がある。
身体所見としては筋性防御や反跳痛などのような腹膜刺激症状があれば絞扼性腸閉塞を強く疑う、
・血液検査:
白血球、CRP、CK・LDHの上昇を認める(初期では上昇してないので注意)
・レントゲン
小腸閉塞であれば拡張した小腸ガス
(単純性腸閉塞、絞扼性腸閉塞)
大腸の閉塞であれば大腸ガスも目立つ
(便秘や麻痺性腸閉塞、腫瘍による大腸閉塞)
・腹部エコー
腸管の内容物が往復する所見を認める(to and fro所見)
〜急性胃腸炎〜
ポイント
急性胃腸炎は除外診断である。他のを除外して、症状としては嘔吐、下痢、軽微な腹部所見がそろって初めて急性胃腸炎と診断。
〜急性胆管炎・胆嚢炎〜
【問診のポイント】
胆嚢炎は夜間か食後に起こる。右季肋部か心窩部の強い痛み。
胆管炎は発熱、黄疸、右季肋部痛でシャルコーの3徴と言われている。
ショックと意識障害が合わさればレイノーの5徴となる。
【検査のポイント】
胆嚢炎のエコー所見:
胆嚢壁肥厚、胆嚢周囲液体貯留、超音波的マーフィーサイン
胆管炎のエコー所見:
総胆管の拡張、肝内胆管の拡張
【鑑別のポイント】
若い女性の発熱+右季肋部ではChlamydia trachomatisによる肝周囲炎を疑う
〜腸管血行障害〜
【分類と好発者】
・上腸間膜動脈(SMA)血栓症(心房細動+高齢者に多い)
・上腸間膜静脈(SMV)血栓症(静脈鬱滞のリスクの患者に多い=心不全、肝硬変
・虚血性大腸炎(便秘の人に多い)
・非閉塞性腸管虚血(透析患者や心臓血管外科術後、急激な血圧変動などがリスク)
【問診・身体診察のポイント】
強い腹痛を訴えるが 身体所見がそれに一致していないことが多い。
腸管粘膜の障害で下血も生じうる。
・高齢者+激痛+腹膜炎のサイン無し+心房細動なら腸間膜動脈閉塞症を疑う
→単純CT+造影CT
【検査】
血液検査:腸管壊死では白血球、CK、LDH、CRPの上昇などが目立つ。
レントゲン;
→腸管壊死が起きて時間が立てば麻痺性イレウス像を呈することも
→虚血性大腸炎なら母指圧痕像という特徴的なレントゲン像を呈する
母指圧痕像のレントゲン像引用元*4
造影CT:
腸管虚血の範囲や血栓の部位などを特定できるので大変有用。虚血性腸炎の場合は浮腫状変化が見られる。
〜急性膵炎〜
【問診のポイント】
原因として男性アルコール多い(女性は胆石)
痛みは上腹部に多いが左側や背中への放散することが多い
前傾姿勢で痛みが軽減
【身体診察のポイント】
皮膚所見:膵酵素の逸脱により臍周囲の皮膚が赤く内出血を起こしたようになる(Cullen徴候、Grey-Turner徴候)
【血液・尿検査】
血中アミラーゼ上昇、血中膵アミラーゼ上昇、血中リパーゼ上昇、尿中アミラーゼ上昇
【CT】
造影CTで炎症の膵外進展度と膵の造影不領域をみる
炎症がどこまで進んでいるか:
→前腎傍腔 0点 結腸間膜根部 1点 腎下極以遠 2点
腹部断面イラスト引用*5
(造影不領域の評価)
膵臓を膵頭部、体部、尾部の3つに分けて造影不良域を評価する:
→各区域に限局している場合or膵の周辺のみの場合 0点
2つの区域にかかる場合 1点
2つの区域全体を占めるorそれ以上の場合 2点
【診断基準】
1.上腹部に急性腹痛と圧痛がある
2.血中もしくは尿中に膵酵素の上昇がある
3.CT、MRI、エコーで急性膵炎を疑う所見がある。
上記のうち2つを満たし、他の急性腹症を除外できるときに急性膵炎と診断する。
【初期対応】
疑われたらすみやかに細胞外液の急速補液を始める。
編集中…
*1:http://www.hanakonote.com/byoutaiseiri/appe.html
*2:http://www.hounanmidori-cl.com/btn04.html
*3:http://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5029
*4:Bowel wall "thumbprinting" in pseudomembranous colitis | Medical Journal of Australia