つねぴーblog@内科専門医

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抗血小板療法と抗凝固療法の違い(脳梗塞治療)

抗血小板薬と抗凝固薬の違い

 

抗血小板薬

 

抗血小板とは血小板の凝集を抑える薬剤であり、主に動脈で作用を発揮する(動脈では血流が早く、乱流が起こりやすい。乱流は血小板の凝集を引き起こし、血栓を形成する。)血小板は内皮細胞が障害されて内皮下組織が露出するとそこに粘着、凝集して活性化される。血小板の活性化経路は複数あることを考えれば複数の作用ポイントをもつ抗血小板薬を併用したほうが良いのであるが、その分だけ出血リスクは上昇するので要注意。

 

適応となる脳梗塞のタイプはアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞である。脳梗塞の予防効果がRCTによって認められているのはアスピリン、シロスタゾール、クロピドグレル、チクロピジンの4剤。

 

アスピリン:古くからある薬で、以前より第一選択薬で広く使われている。ラクナ梗塞においては脳出血の副作用が多い。よってラクナ梗塞の場合は他の抗血小板薬が推奨される。また、アスピリンは消化管出血のリスクも強めてしまうのでプロトンポンプ阻害薬の併用が推奨される。

 

チクロピジン、クロピドグレル:共に血小板のADP受容体を阻害することにより抗血小板作用を有する。

・チクロピジンはアスピリンよりも脳梗塞の予防効果は高いが、無顆粒球症、肝障害などの副作用が多いためにあまり推奨されない。

・それに比べてクロピドグレルは副作用が少ないので用いられることが多い。アテローム血栓性脳梗塞ではクロピドグレルが第一選択薬。

 

シロスタゾール:シロスタゾールはホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤で血小板のcAMPを増加させることにより抗血小板作用を有する。シロスタゾールはアテローム血栓性梗塞だけでなく、ラクナ梗塞の再発予防にも有効であることが知られている(第一選択)。また、アスピリンよりも脳梗塞予防効果が高いことがRCTにより証明されている。シロスタゾールは血管の拡張作用があるために副作用として頭痛や動機、脈拍の増加などがある。よってうっ血性心不全患者への投与は禁忌。

 

 

抗凝固薬

 

抗凝固薬とは凝固因子の活性化を抑えることでフィブリンの形成を抑える。主に静脈や左心房で効果を発揮する。(心房細動や血管の狭窄によって血流がうっ滞すると凝固因子は活性化する)

 

適応となる脳梗塞のタイプは心原性脳梗塞、アテローム血栓性脳梗塞(急性期のみ)である。(アテローム血栓性脳梗塞の急性期では血小板凝集による血栓形成と凝固因子の活性化によるフィブリン形成が混在していると考えられる。)

心原性脳梗塞の原因として最も多いのは非弁膜症性心房細動(NVAF)である。また、脳梗塞のリスクファクターとして最も大きい物は塞栓症の既往である。よって一度塞栓症を起こした患者は特別な禁忌が無い限りは抗凝固療法を行うべきである。

 

心原性脳梗塞の治療薬としてはワルファリン、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなどが使用される。

ヘパリン:血液中の抗凝固因子のアンチトロンビンに結合して活性化させる。

ワルファリン:経口抗凝固薬として長い歴史がある。ワルファリンはビタミンK依存性の凝固因子(3,7,9,10)の合成を阻害することによって抗凝固作用を発揮する。

アルガトロバン:選択的トロンビン阻害薬であり、アンチトロンビンを介さずに直接トロンビンを阻害する。

日本で急性期脳梗塞で用いられる抗凝固薬はヘパリンとアルガトロバン(スロンノン、ノバスタン) 。

ワーファリンとNOACは心原性脳梗塞の発症予防、再発予防を目的に使用される。

 

【発症様式における使い分け(脳卒中ビジュアルテキスト参照)】

臨床病型の鑑別が困難な場合→アスピリン160〜300mgの1日1回投与

・アテローム血栓性梗塞の場合:TIAもしくは軽症脳梗塞であれば経口抗血小板薬(アスピリン単独またはアスピリン+クロピドグレルの併用)を開始。発症48時間以内の脳梗塞ではさらなる進行を抑えるために抗血小板療法に加えて抗凝固療法が行われる。(第一選択はアルガトロバン)。ちなみにオザグレルも保険適応が有るが、抗血栓作用は弱く、抗血栓作用が弱いため経口薬が使えない時に点滴であるオザグレルを用いる。

・ラクナ梗塞の場合:

ラクナ梗塞に対して有効性が確認されている抗血栓薬はオザグレル。特に運動麻痺を有するラクナ梗塞に効果が高い。

・心原性脳塞栓症の場合:

心原性梗塞では閉塞血管の自然再開通による出血性梗塞の合併が高率で起こるので、前述したアルガトロバンやオザグレルは原則禁忌。心原性梗塞は再発率が高いので再発予防目的で早期からヘパリンによる抗凝固療法を行うべきという意見もある。が、ヘパリン投与で再発率を減少させるが、逆に出血性脳卒中の発生が増加するため、全脳卒中の発症率はヘパリン使用の有無により差はなく、急性期のヘパリン使用は否定的なミカタが強い。

☆最近は出血性梗塞の発生しやすい発症後1−2周間は抗凝固療法は行わず、その後、再発予防を目的としてワーファリンやNOACによる経口抗凝固療法を開始することが多くなっている。

 

■抗血小板薬の併用療法について

抗血小板薬は多剤同時に用いれば脳梗塞のリスクを減少させることができるが、副作用として脳出血のリスクは高まる。単剤が良いのか多剤が良いのか、それを確かめるべくこれまでに幾つかの臨床試験がなされてきた。

・アスピリン+ジピリダモール→アスピリン単剤に比べて脳出血のリスクを増やさず優位に脳梗塞の発生リスクを抑えられている。

・アスピリン+クロピドグレル→いずれも出血性イベントの増加が見られ、有効性は認められない。

・シロスタゾールと他の抗血小板薬との併用に関しては現在大規模な臨床研究が進行中である。

(シロスタゾールには抗アテローム効果作用という特性があるのでその分他の抗血小板薬よりも期待されているようである)。

 

 

参考文献:

病気が見える脳神経

脳卒中ビジュアルテキスト

神経内科ハンドブック

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