嗅神経障害の原因と診察
嗅神経(第一脳神経)の働きについてまとめ
嗅神経とは脳神経12対のうちの1番目の脳神経である。嗅神経は名前の通り、嗅覚を感知するための知覚神経。
【嗅神経の経路】
鼻腔の奥深くに嗅上皮と呼ばれる部分があり、ここに嗅細胞が多数存在している。ここで「匂い」の情報が感知される。この嗅細胞は篩骨の一部である篩板にある小さな穴を通り、頭蓋骨の内部に入る。嗅細胞の軸索は他の嗅細胞の軸索と束になっているので、これらをまとめて嗅糸という。嗅糸は大脳の手前にある嗅球でシナプスを形成し、嗅索という繊維になり大脳辺英系の嗅覚中枢に至る。
出典:慶応大学HPより
【嗅神経の検査法】
患者さんに目を閉じてしまい、片方の鼻をつまんで、もう片方の鼻で匂いを嗅いでもらう。タバコやコーヒー、香水など患者に馴染みのあるものを用いる。その後もう片方の鼻でも同様に行う。何回も深呼吸すると対側に匂い物質が拡散するので、一側性障害の検出は困難になる。
尚、アンモニアなど強烈な匂い物質は鼻の嗅覚受容体のみならず、三叉神経週末や味覚に関する神経も刺激するため嗅覚神経の評価を正しくできなくなるので用いない。
【嗅覚障害の原因】
両側性の嗅覚の異常は多くの場合鼻粘膜の異常(副鼻腔炎や鼻茸など)により生じることが大半であるので、神経学的診断的意義は大きくはない。片側性の嗅覚低下は器質的疾患を疑わなければならない。
嗅覚障害にはその程度から次のように分類される
◯嗅覚脱失(匂いがわからない)、嗅覚減退(匂いがわかりづらい)
原因:鼻炎、脳腫瘍、パーキンソン病やアルツハイマーなど変性疾患、頭部外傷
ちなみにアルツハイマー病では病初期に嗅神経障害を合併することがあるので神経内科としては嗅覚低下も重要な所見である。
◯嗅覚過敏(匂いを異常に強く感じる)
原因:精神疾患や側頭葉てんかん、妊婦など
◯幻臭症(周囲に何も存在していなくても極めて不快な悪臭を感じる)
原因:側頭葉てんかん
側頭葉てんかん発作はグリオーマなどの腫瘍が原因となることが多い(腫瘍が側頭葉に焦点を持つ部分発作を引き起こす)。患者は「腐った魚のにおいがする」と訴えてきたりする。
【追記】
・頭部外傷で嗅神経障害となる理由
→嗅覚神経の一次受容体は双極性ニューロンの化学受容器であり、粘膜からの刺激を受けて、鼻腔奥の篩板を通って頭蓋内に入る。この部分は嗅糸と呼ばれ、頭部外傷による物理的な力によって断裂を起こしやすい。