つねぴーblog@内科専門医

アウトプットが趣味です。医学以外の事も投稿するやもしれません。名前は紆余曲折を経てつねぴーblogに戻りました

移転しました。

急性膵炎を疑ったら

急性膵炎を疑ったら

 

◯いつ急性膵炎を疑うか

・突然の腹痛で発症(上腹部痛40%、全体の痛み30%、臍周囲20%ほど)

(随伴症状は嘔吐や高熱、背部痛などもある。ちなみに、急性膵炎の10%は無痛と言われており採血や画像で引っかかったら痛みが何もなくても否定してはならない。

・痛みが前屈で改善する。

・疼痛は数日続くことが多い。

・急性胃腸炎と異なり、嘔吐しても痛みは改善しない。

(急性膵炎初期から嘔吐が続くことは稀であるが、炎症が腸管に波及すると腸閉塞になってそのために嘔吐を繰り返すこともある。)

・腹部診察時に皮下出血斑を認める→参考画像:カレン徴候とグレイターナー徴候

(皮下出血班があれば急性膵炎っぽくはなるが、発症48時間後以降に現れることが多いため救急外来での早期診断に有用というわけでもない)。

・アルコールの多飲歴あり

(男性の急性膵炎ではアルコールが原因であることが4割程度。アルコール多飲後に上腹部痛という現病歴ではだいぶ疑わしい)。

 

◯急性膵炎の原因は?

原因としてはアルコール30%、胆石性膵炎20%、特発性20%と言われている。

その他、慢性膵炎増悪、ERCP後、手術、薬剤性、脂質異常症、膵癌、自己免疫性機序などがある。急性膵炎を疑ったら何が原因で起こっているのか考えることが大事。

年齢別の特徴があり、男性では20〜50台はアルコール性が多いが、60歳以上は胆石性膵炎の割合が増加する。上腹部痛患者の問診ではアルコール歴、胆石症の既往などの問診を忘れずに。

 

◯急性膵炎の診断基準(厚労省研究班)

1,上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある

2,血中・尿中に膵酵素の上昇がある

3、画像で急性膵炎に伴う所見がある

上記3項目のうち2つを満たしたら急性膵炎と診断できる。

 つまり、アミラーゼ上昇も画像所見も診断に必須ではない。これは発症初期の場合や慢性膵炎の急性増悪では画像上変化が出ないことがあるからである。同様にアミラーゼ上昇も急性期には満たさないことがあるからである。

 

 

◯急性膵炎の重症度分類

急性膵炎の診断ができたら次は重症度判定。

救急外来で重症度判定するのはこのまま二次救急病院で診てて良いのか、それとも高度救命センターに送らないといけないのか判断する必要があるから。

重症度判定には9つの予後因子と造影CTによって行われる。

 

【急性膵炎の予後因子】(急性膵炎ガイドライン2010)

1,Base Excess≦-3mEq/L またはショック(収縮期血圧80mmHg以下)

2,PaO2≦60mmHg(room air)または呼吸不全(人工呼吸管理が必要)

3,BUN≧40mg/dl(or Cre≧2mg/dl)、または乏尿(輸液後も1日尿量が400ml以下)

4、LDH≧基準値上限の2倍

5、血小板≦10万/mm3

6、総Ca≦7.5mg/dl

7、CRP≧15mg/dl

8、SIRS陽性項目3つ以上(1:体温38度以上もしくは36度以下、2:脈拍数90回以上、3:呼吸数>20回/分またはPaCO2<32torr、4:白血球数12000/μl以上もしくは4000/μl以下または10%幼若球出現

9、年齢≧70歳

上記9項目のうち3項目以上満たしたら重症判定。 

 

【造影CTgrade】

炎症の膵外進展度と、膵臓の造影不領域のスコア化する。

・炎症の膵外進展度

前腎傍腔:0点

結腸間膜根部:1点

腎下極以遠:2点

・膵臓の造影不領域(膵臓を便宜的に3つの区分(膵頭部・膵体部・膵尾部)に分けて

各区域に限局している場合、または膵臓の周辺のみの場合:0点

2つの区域にかかる場合:1点

2つの区域全体を占める、またはそれ以上の場合:2点

 炎症の膵外進展度と造影不領域を合計して1点以下をGrade1、2点をGrade2、3点以上をGrade3とする。Grade2以上のものを重症と判定。

 

★急性膵炎の重症度判定は予後因子もしくは造影CTどちらか片方でも満たせば可能。

 

◯急性膵炎の初療

・十分な輸液

急性膵炎では早期から血管透過性の亢進や膠質浸透圧の低下で細胞外液が血管外に濾出していく。急性膵炎の死亡率を上げている一因として初期輸液不足が指摘されており、大量の輸液が必要。もちろん心不全患者などでは大量輸液によって肺水腫になるリスクがあるが、それを恐れるあまり初期輸液を少なく絞って臓器不全を引き起こしては元も子もない。

(重症例であれば第一病日に8000ml/day、第2病日以後に4000〜5000ml/day。中等症においては第1病日に5000ml/day、第2病日以後2000〜2500ml/day程度の輸液が必要になる。細胞外液。

→平均血圧65以上、尿量0.5ml/kg/h以上維持できなければ3次救急に搬送検討

・鎮痛:レペタン®(ブプレノルフィン) 1A(0.2mg/1ml)

初回投与0.3mg静注、続いて2.4mg/dayの持続投与。レペタンは除痛効果に優れており、非麻薬性鎮痛薬に指摘されていたOddi括約筋の収縮作用による病態悪化をきたさないために急性膵炎における疼痛コントロールで大変有用。ただし過鎮静には注意。

この他、ソセゴン®15−30mgの筋注・静注なども可能。

・抗菌薬

グラム陰性菌を中心とする腸内細菌群における膵および膵周囲の感染症は急性膵炎における致死的な合併症となりうる。重症例であれば24時間以内に組織移行が良好な広域抗菌薬(メロペネムやイミペネムが第一選択)を用いる。軽症の膵炎においては感染合併率や致命率が低いため予防的抗生剤の投与は不要。エビデンスもない。

・ERCP+EST

急性膵炎の原因が胆石だった場合の話。

胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸の出現または増悪などの胆道通過障害を疑う症例には早期のERCP+EST(内視鏡的乳頭切開術)を考慮。

・タンパク分解酵素阻害剤

1:ガペキサートメシル酸塩(エフオーワイ®):100mgを5%ブドウ糖液またはリンゲル液500mlに溶解して8ml/h分以下で点滴静注(約1時間以上)

2:ナファもスタットメシル酸塩(フサン®):10mgを5%ブドウ糖液500mlに溶解して2時間かけて1日1−2回点滴静注する。

3:ウリナスタチン(ミラクリッド®):25000〜50000単位を輸液500mlで溶解して1−2時間かけて1日1−3回点滴投与。

 

また追記・更新します。