動脈血液ガスで酸塩基平衡の評価
動脈血ガスの見方
◯血液ガスで何がわかるのか
血液ガスの項目にはpH,PaCO2,PaO2,HCO3-の4項目がある。
血液ガスを測定する目的は大きく分けて2つである。
1.呼吸に異常がないかみる
→PaO2とPaCO2をチェック
2,酸塩基平衡に異常がないかみる
→pH、PaCO2、HCO3-をチェック
この2つがごっちゃになると解釈がわけわからなくなるので必ず呼吸なのか、酸塩基平衡なのか何に注目しているのか考える。
このページでは酸塩基平衡についてまとめ
【イラスト】
参考画像:http://www.eonet.ne.jp/~hidarite/ce/kokyuu04.html
ステップ1、まずは血液が酸性なのか、アルカリ性なのか判断する
pH7.4以下ならアシドーシス、pH7.4以上ならアルカローシス。超簡単。
ステップ2、代謝性の問題なのか、呼吸性の問題なのか判断する
◯pH7.4以下でアシドーシスの場合
・PaCO2が高ければ(PaCO2>45Torr)CO2が蓄積して血中に酸性物質が多いことになるので呼吸性アシドーシス
・HCO3-が低ければ(HCO3- <22)アルカリ性物質が減っているので血液は酸性に向かい代謝性アシドーシス。
◯pH7.4以上でアルカローシスの場合
・PaCO2が低ければ(PaCO2<35Torr)CO2が排出されて酸性の物質が血液中に少ない状態であるので呼吸性アルカローシス。
・HCO3-が高ければ(HCO3−>26)アルカリ物質が蓄積しているので血液はアルカリ性に向かって代謝性アルカローシスとなる。
*わからない人のためにちょっと説明
体内で酸塩基の調節をしている臓器は肺と腎臓。肺ではCO2を放出することで、腎臓ではHCO3-を排泄することでpH調節を行う。CO2は肺から放出されるのでこの値を見ることにより呼吸器に原因がないかを確認できる。HCO3-を見ることで腎臓(代謝系)に原因がないかを確認できる。
・肺が原因で体内のCO2バランスが崩れる場合を呼吸性アルカローシス、呼吸性アシドーシスなどと呼ぶ。例えば呼吸の効率が悪くなって酸性物質であるCO2を吐き出せなくなってアシドーシスになる場合は呼吸性アシドーシスである。
・腎臓など代謝系に問題が生じてHCO3−が蓄積もしくは消失してpHバランスが崩れることを代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスなどと呼ぶ。
・例えば糖尿病患者の場合、インスリンが枯渇して糖を利用できなくなり、代わりのエネルギー源として脂肪を分解する。脂肪は分解されて酸性物質であるケトン体になる。ケトン体が増えすぎると血中のpHも酸性に傾き、このような場合を代謝性アシドーシスという。
ステップ3、代償が起きているかどうか見る
呼吸不全がありPaCO2が高くなり呼吸性アシドーシスの場合、血中に酸性物質がたまりpHが高くなってしまう。その場合、腎臓がHCO3-を調節することによりpHが高くなりすぎないように調節する。呼吸性アシドーシスの場合はHCO3-の値を見てHCO3->26と代謝性アルカローシスであれば腎臓が代償してくれているということになる。
逆に腎臓に問題があり、HCO3-が蓄積して代謝性アルカローシスの時には反対側のPaCO2をみて肺が頑張って代償性の呼吸性アシドーシスになっているかどうか(PaCO2>45Torr)を確認する。
*砂場の山を考えるとイメージしやすい。酸塩基平衡においては以下の式が成り立つ。
H2O + CO2 ⇄HCO3- + H+
この式において、CO2がめちゃくちゃたまって富士山みたいになっていることを想像すると崩れてHCO3ーの方にも土砂が流れていく。するとCO2が少し下がってHCO3-が上がる(代償)。呼吸性アシドーシスの代謝性の代償。
また、CO2がめっちゃ下がって大きな穴になていると考えるとHCO3-の方から砂がCO2側に流れていくのでCO2が少し上がってHCO3-が少し下がる。呼吸性アルカローシスの代謝性の代償となる。
(参考)代償でどの程度の変化が起きるか
→アシドーシスやアルカローシスの代償の目安 - とある研修医の雑記帳
ステップ4、もし、代償が起きていなかったらどう考えるか
例えばもし代謝性アシドーシスがあれば肺が代償してCO2をどんどん出していく。もしこの代償が起きていないということはかなりの急性期。
一方で呼吸性アシドーシスなどの場合は逆に腎臓が代償を行ってHCO3-を貯めてアルカリを増やす。呼吸性の代償と違い、腎臓は尿中のHCO3-を再吸収と言うかたちで代償するので代償に時間がかかる。数日はかかると言われている。代償が起きていない場合は「まだ代償している途中」と考えるとともに「他の病態がないか」考える必要がある。
★演習1
pH7.08 PaCO2 80 PaO2 40 HCO3- 26
↓
pHがアシデミア。PaCO2 80と呼吸性アシドーシスが考えられる。
呼吸性アシドーシスの代償の目安は:(急性であれば)「PaCO2が10増えたらHCO3-は1増える」だから予想されるHCO3-は24±2の範囲内なので適切な代償の範囲内でOK。
診断は呼吸性アシドーシス。(症例は呼吸筋力低下による肺胞低換気)
★演習2
pH7.54 PaCO2 22 PaO2 115 HCO3- 22 Na135 Cl- 98
↓
pH7.54 とアルカレミア。PaCO2(酸)が22と低下しているので呼吸性アルカローシス。呼吸性アルカローシスの代償は(急性期)「PaCO2が10減ったらHCO3-は2減る」なのでPaCO2が40−22=18低いのでHCO3-は3.6下がるはず。24−3.6=20.4であり測定値の22の±2の範囲なので適切に代償されているということになる。
診断は呼吸性アルカローシス(過換気の症例)
★演習3
pH7.5 PaCO2 49 PaO2 80 HCO3- 38 Na146 Cl 98
↓
pH7.5とアルカレミア。HCO3-が38と貯留しているので代謝性アルカローシス。代謝性アルカローシスの代償は「HCO3-が1増えたらPaCO2が0.7増える」なのでHCO3-が14増えているので14×0.7=9.8増えるはず。PaCO2は49なので代償は適切に行われていることになる。
診断は代謝性アルカローシス(腸炎で嘔吐多量の症例)
★演習4
pH 7.34 PaCO2 7.7 PaO2 113 HCO3- 4.1 BE -18 Na159 CL118
↓
pHが7.34とアシデミア。アシデミアの原因として、HCO3-(アルカリ)の低下が考えられる。よって腎臓で再吸収が出来ていないから→代謝性アシドーシス。
代償反応としてPaCO2=1.5×HCO3- +8±2=で12〜16になるはずだが、実際にはPaCO2は7.7と低いために呼吸性のアルカローシスも合併している。
AG=Na-Cl-HCO3-=36.9と開大
診断:AG開大性代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの合併
(DKAの症例)
★演習5
pH 7.12 PaCO2 13 PaO2 105.5 HCO3- 4.1 BE -25.2 Na 154 Cl110
↓
pHが7.1とアシデミア。HCO3-(アルカリ)が4.1と低下しているので代謝性アシドーシスが考えられる。代償反応としてはPaCO2=1.5×HCO3- +8±2=1.5×4.1+8±2=12〜16となるがPaCO2は13なので適切な代償範囲内。
また追記更新します。
参考:
ICU実践ハンドブック
竜馬先生の血液ガス白熱講義