いつ嫌気性菌を疑うか(横隔膜の上と下で分けて考える)
嫌気性菌感染をいつ疑うか
嫌気性菌とは酸素のない環境下で増殖する菌である。が、健常人においても消化管や口腔あるいは膣などの粘膜の常在細菌叢にも一部定着している。常在菌だけでは感染症を起こさずに無害であるが、何らかの原因によって宿主側の環境の変化が生じると一気に増殖して感染症を引き起こす。例えば、異物の侵入や手術などによって常在細菌叢の好気性菌が増殖すると、酸素をどんどんと消費してしまい、常在細菌叢が嫌気的な環境になってしまう。すると常在細菌叢にいた嫌気性菌が優位に増殖しやすくなり感染症を引き起こす。多くの場合は嫌気性感染は常在細菌の増殖による内因感染である。
【嫌気性菌感染症の例】
・膿瘍形成(肝膿瘍、脳膿瘍、肺化膿症)
・副鼻腔炎
・歯肉炎
・扁桃腺炎、扁桃周囲膿瘍
・誤嚥性肺炎
・腹腔内感染(虫垂炎、胆道系感染、憩室炎など)
・骨盤内臓器感染
・壊死性筋膜炎
【いつ嫌気培養を考えるか】
嫌気性菌は普通の培養では増殖しない。酸素のない嫌気培養をしなくてはならない。
嫌気培養の提出をいつ考えるか、それは当然嫌気性感染を疑う時である。
例えば…
・検体に菌を認めるが一般の培養で陰性
・病巣部に悪臭があったりガスがある時
・膿瘍や腹膜炎などが他の検査で認められた時
・臨床的に敗血症や感染性心内膜炎が疑われるが血液培養陰性の時
など
◯嫌気性菌がどこにいるのか、横隔膜を基準に考える
横隔膜より上の嫌気性菌→嫌気性レンサ球菌(Peptostreptococcus)
喀痰のグラム染色上、陽性、陰性、球菌、桿菌と様々なタイプに見える。
臨床液には口腔内感染症、誤嚥性肺炎、肺膿瘍、膿胸など
治療:緑色レンサ球菌に対してはペニシリンG(他の代替薬としてはクリンダマイシン)
横隔膜より下の嫌気性菌→バクテロイデスやクロストリジウム属
臨床的には肝膿瘍、胆道感染、骨盤腹膜炎などの腹腔内感染症。
治療薬:バクテロイデスに対してはメトロニダゾール(他の代替薬としてはクリンダマイシン、セフメタゾール、アンピシリンスルバクタム、アモキシシリンクラブラン酸、カルバペネムなど)