低Na血症の原因と鑑別
低ナトリウム血症の原因と対応
(今までの投稿の寄せ集め的な記事ですが)
【フローチャート】
STEP1,血漿浸透圧から低Na血症の原因を絞る。
血漿浸透圧の予測式=2×Na+2.8/BUN+18/Glu
浸透圧が280以下であれば低張性低Na血症、280以上であれば高張性or等張性低Na血症。
・高張性低ナトリウム
高張性低Na血症は著明な高血糖があったり、マンニトールやグリセオールなどの高浸透圧性の物質を投与した場合に起こる。高浸透圧の物質が血管内に存在すると、細胞内の水が細胞外(血管)に移動して薄めようとする。その結果、血漿Naの絶対的な量は変わらないのに水の量だけが増えるのでNaは薄まって低Na血症となってしまうのである。
*高血糖の場合、血糖が100mg/dl上昇するたびにNa濃度は1.6mEq/l低下し、血糖が400以上の場合は100mg/dl上昇するたびにNa濃度は2.4mEq/l低下する。例えば血糖600の場合は100のときに比べて9.6も見かけ上低くなるということである。
・等張性低ナトリウム(偽性低ナトリウムとも)
高脂血症や多発性骨髄腫などによる免疫グロブリン過剰状態に起こる偽性低Na血症。何らかの原因によって血中の脂肪やタンパク質などの固形成分の容積が増大すると、Na濃度は見かけ上低下してみえる。等張性という表現は水分画中のNa濃度は正常(=等張)という意味である。ちなみに血液ガス分析によるNa測定では測定法が異なり偽性低Na血症はきたさない。
・低張性低ナトリウム(←これがいわゆる低ナトリウム血症)
低張性低Naの場合だと血漿浸透圧が低いため、脳細胞に血管から水が移行して脳浮腫を引き起こす。原因としては下痢、嘔吐、水中毒、SIADHなどNaの絶対的欠乏によることが多い。脳浮腫予防のためにNaを直ちに補正する必要がある。
STEP2,水中毒の除外
●水中毒とは
水中毒とは水の多飲によって生じる低Na血症のこと。腎機能に問題がなくとも精神疾患やストレスによって心因性に大量の水を飲んでしまう場合などに生じうる。大量の水を飲んだあとは、腎臓は水を尿から出そうとしてできるだけ希釈した薄い尿を出そうとする。が、水中毒のように腎臓の能力を上回るペースで水を飲んでしまうと排泄できずに体に溜まってしまう。低Na血症をみたら鑑別に水中毒をまず挙げる。
●尿浸透圧で水中毒かどうかわかる
尿浸透圧の基準値は100 ~ 1300mOsm/kgH2Oと幅が広く、飲水量によって大きく変動する。尿浸透圧が100mOsm/kg以下であれば、最大限に尿が希釈されているということなので水中毒が疑われる。
●尿浸透圧が測れなければ尿比重を
尿浸透圧がすぐに測定できない場合は尿比重を調べて尿浸透圧を概算する。
尿浸透圧≒(尿比重の下二桁)×20〜40
例えば尿比重が1.020であれば尿浸透圧は400〜800mOsm/lに、尿比重 1.010 であれば尿浸透圧は 200 〜 400 mOsm/lとなる。尿比重もわからない場合は患者の尿を直接見る。主観的であっても色が非常に薄く見えて更に尿量も多ければ水中毒が疑われる。
●水中毒の治療
水中毒による低Naムは、腎臓からどんどんと薄い尿が出ているので飲水制限をするだけで速やかに改善する。低Naがひどいときに高張性の食塩を投与すると急速に補正されすぎてしまうためにむしろ危険。
STEP3、低張性低Naの鑑別をもう一歩踏み込む
【低張性低ナトリウム血症の分類】
水とNa量のバランスによって3つに分類される。
細胞外液量増加(hypervolemic):体内のNa量も自由水も減少しているが、Naの減少の程度が強い。
(例:心不全、肝不全、腎不全、ネフローゼなど)
細胞外液量正常(euvolemic hyponatremia):体内の総Na量の変化は無いが自由水は増加している状態。
(例:心因性多飲、SIADH、甲状腺機能低下症、糖質コルチコイド欠乏など)
細胞外液量減少(hypovolemic):体内のNa量も自由水も減少しているが、自由水の減少の程度が強い。
(例:嘔吐、下痢、利尿薬、熱傷による3rd spaceへの移行など)
☆ 細胞外液量の評価は総合的に行う↓
・身体所見で浮腫や脱水ないか。
・採血でBUNやHbなどが濃縮もしくは希釈されていたりしないか。
・胸部レントゲンで心拡大や胸水貯留の有無、腹部エコーで腹水貯留など。
・既往歴で心疾患、腎疾患、肝疾患など細胞外液量増加となるようなものないか
STEP4:Naがどこから消えてるのか
尿Na濃度を測定することでNaが腎臓or腎臓外のどちらから消えてるのか調べる。
●尿Na濃度20mEq/Lをカットオフ値として、20mEq/L以下であれば腎外性(つまり尿から出ていない)で腎臓以外の場所からNaが消えていると考える。原因としては嘔吐、下痢、炎症によるサードスペースへの移行など
●逆に尿Na濃度20mEq/L以上であれば腎性(つまり腎臓を経由してNaが喪失されている)と考えられる。原因は塩類喪失性腎症、利尿薬の使用、低アルドステロン症など。
STEP5:低Na血漿をどう補正するか
●一日にどれだけ補正してよいのか
Naが120mEq/Lかつ神経所見あり(頭痛、嘔吐、意識障害、痙攣など)の場合は緊急で補正を開始する必要がある。急性の低ナトリウム血症は比較的急速に補正しても良いが、慢性の低ナトリウム血症はゆっくり補正しなければならない。(橋中心脱髄症候群を防ぐため)急性低ナトリウム血症の場合は一日12mEq/Lまで、慢性の低ナトリウム血症は1日8mEq/L以内で補正。慢性なのか急性なのかわからない場合は慢性のものとして対応する。
●緊急性があったら高張食塩水(3%食塩水)を使用
作り方:10%NaCl30mlと5%ブドウ糖液70mlを混合。もしくは10%食塩水120mlと生理食塩水(0.9%食塩水)380mlを混合しても3%生理食塩水になる。
・脳ヘルニアの危険がある場合
→3%食塩水を50〜100MLを10分かけて静注する
・中等度の神経症状がある場合(意識障害、嘔吐、一過性痙攣)
→3%食塩水を50-100MLを1時間かけて投与する。(1時間〜2時間に一度の採血でフォロー)
はじめの2−4時間は2-4mEq/L、次の20時間は4-6mEq/Lの補正が目標。症状の改善が見られるか、ナトリウムが125以上になったら3%NaClは中止。
●緊急性のない場合(軽症もしくは無症候性の低Na)
細胞外液量上昇で浮腫など、もしくは細胞外液量減少があり脱水あればまずその補正を行う。細胞外液量が正常であるがNa濃度だけが異なっている場合はどうすればよいのか。低ナトリウム血漿で細胞外液量が正常の場合の鑑別診断としてSIADH、MRHE、甲状腺機能低下症、糖質コルチコイド欠乏、下垂体・副腎機能低下症などがある。内分泌疾患が除外できればSIADH疑いとして対応することになる。(もちろん診断基準みる。ちなみにSIADHの治療は原疾患の治療、水制限、低張な輸液を避けるの3点。
また追記します…。