アルツハイマー病の原因・症状・治療
アルツハイマー病のメカニズム
【概要】
アルツハイマー病(AD)は認知症の中では最も多く、一般にもよく知られています。
そのうちの99%以上が弧発性であり、ごくわずかの症例が家族性のアルツハイマーとされています。家族性のアルツハイマーではApoEというタンパク質が原因遺伝子と考えられていましたが、現在では危険因子に過ぎないと言われています。他にも原因遺伝子は複数ありますが、いずれもアミロイドβタンパク質(Aβ)に関連しており、これが病態メカニズム解明の切り口となりました。
【症状】
よく知られているように認知機能の低下が主な症状ですが、その進行スピードは非常にゆっくりです。
初期症状:
重度の物忘れ:AD患者は30秒以内の記憶はしっかりとすることが出来るので普通の会話をすることも出来ますが、分単位の記憶になると忘れてしまいます。ですので、エピソード記憶ごと忘れてしまいます。例えば、ご飯を食べたことを忘れる、財布をしまったことを忘れる・・など。
見当識障害:時間の感覚がなくなり、日付を答えられなくなります。
人格変化:繊細さが乏しくなり、無遠慮になります。
中期症状
記憶障害と見当識障害が更に悪化します。
自分のしたことを忘れるだけでなく、道具の使い方を忘れたり、衣類の着脱も難しくなります。
支援する家族としては大変なのに対し、患者自身はしばしば多幸を呈します。
末期症状
日常生活の全てにおいて支援が必要な状態となり、知能はほとんど失われ、支援者と意思の疎通も難しい状態となります。また、常時失禁し、食べれないものも口にしようとしてしまいます。
【検査】
1、認知症評価尺度
長谷川式簡易知能評価スケールやMMSEなど
2、画像診断
CTやMRIでは大脳の全般的な萎縮がみられ、それに応じてシルビウス溝や脳室の拡大所見が見られる。
しかしこれらはかなり病気が進んでしまっている状態であるので初期の発見をするのは簡単ではない。
3、髄液検査
脳には髄液が循環しているが、それを一部採取することによって検査することが出来る。
髄液中のタウの増加とAβの減少。この両方が組み合わされば感度も特異度も85%と言われ、かなり信頼性出来る検査となる。
【治療】
1、生活面
快適な精神・身体活動は本性の進行を遅らせるので出来るだけ外出を促し、社会生活を送らせるようにしたほうが望ましい。散歩でもスポーツでも。それ以外にも手と道具を利用した趣味などをすることによっても脳に刺激を与え、進行を遅らせることが出来る。今日は何月何日?というような質問を毎日するのも効果的。
2、薬物療法
コリンエステラーゼ阻害薬である塩酸ドネペジルが一般的。
アルツハイマー病では脳内のアセチルコリン量が減少しているので、アセチルコリンを分解してしまうアセチルコリンエステラーゼを阻害することによってアセチルコリン量の減少を止めようとする狙い。しかしながら、アセチルコリンの減少はアルツハイマーの原因ではないので、対症療法に過ぎない。
とはいえ、初期症状から中期症状に行くのを1年ほど遅らすことができる。
その他にも、幻覚症状などを抑えるためにハロペリドールなどのD2受容体遮断薬が用いられてきたが、副作用が大きいのでリスペリドンやオランザピンなどのものが今ではよく用いられる。
【病態生理】
大脳の全般的な萎縮→脳室の拡大
最初は海馬を中心とする側頭葉の内側からはじまり、次第に大脳皮質全域に広がる。
顕微鏡:老人斑と神経原繊維変化が観察される。
老人斑・・・アミロイドβが沈着し、周囲にグリア細胞が取り囲んでいる構造物。
アミロイドβというのは神経細胞膜の膜タンパクであるアミロイド前駆タンパク(APP)が切り出されて出来る。
APPは通常αセクレターゼという酵素によって切り取られ、Aβは産生しないのだが、βセクレターゼという酵素に切り取られ、γセクレターゼが作用することによってAβが作られてしまうのである。
AβにはAβ40とAβ42がある。(それぞれアミノ酸の数)
神経原繊維変化・・・