つねぴーblog

元「とある研修医の雑記帳」。アウトプットが趣味です。医学以外の事も投稿するやもしれません。

細菌に対する免疫応答

免疫学というのは、ヒトが外部からの細菌やウイルスなどからどのようにして身を守っているのかということについての学問であるが、非常に膨大である上にその学問フィールドも日々広がっており生命・医学の分野においてはもっとも熱い分野であると行っても良いだろう。日本における研究レベルは大阪大学医学部を中心として世界でもトップクラスであり、また基礎研究と臨床研究の境界線が薄いことからも産業レベルでも非常に注目を集めて・・・と前置きはこのぐらいにして・・・


免疫学と行っても範囲が広いのでどこから説明していけば良いのか難しいところがある。なので、実際に異物が傷口などから入ってきたとき、身体の中で何が起こるかというところから説明を始めていきたい。


細菌が傷口に侵入したとき何が起こるか


まず、異物といっても具体的にどのようなものがあるのだろうか。一般的に4つに分類することが出来ると思う。

1.細菌
2.ウイルス
3.真菌
4.寄生虫

まずは、細菌が侵入したときに何が起こるか書いていこうと思う。皮膚を怪我してそこから細菌が入ったとする。するとそこにマクロファージや好中球といった貪食細胞が集まるのである。貪食細胞というのは名前の通り、異物をばくばくと食べてくれる細胞である。

では何故マクロファージや好中球といった貪食細胞は細菌の侵入に気づくことが出来るのだろうか。

侵入した細菌はケモカインと呼ばれる化学物質を放出し続けるのである。このケモカインに惹かれてマクロファージがやってきて細菌を食べてくれる。また、マクロファージ自体もケモカインを出すので好中球もやってきてくる。勿論マクロファージや好中球は元々別の場所、マクロファージは各組織に点在しているが、好中球は血中にいるのであるから、異物の侵入警報に対応してわざわざ駆けつけてくれるのである。

このマクロファージや好中球の良いところはどんな細菌が侵入しても消防士さながらとりあえず火消しのために出動してくれるのだが、誰に対しても立ち向かうためにあんまり強くはない。当然強力な敵が出現した場合、これらの貪食細胞による防衛ラインも突破されてしまう可能性がある。

こんな非常事態のためにヒトが持っているのが「抗体」という兵器である。この抗体というのは異物に対して特異的に結合することが出来る(つまり特定のものだけにくっつくことが出来る誘導ミサイルのようなもの)。つまり、人間の身体は防衛ラインを突破した外来抗原に抗体をがぺたぺたと結合させることが出来るのである(オプソニン化)。すると、それを合図に好中球の攻撃能力が著しく上昇し、抗体にまみれた異物を殺傷してくれるのである。この抗体というのはB細胞という免疫細胞が作ってくれるのである。


【ここまでのまとめ】

最初は好中球・マクロファージが侵入細菌と闘う。
それだけでは倒せないのでB細胞の抗体で細菌を取り囲んで(オプソニン化)好中球の貪食能力がアップして食べてもらう。




有事に備えるB細胞軍団

まず、B細胞が抗体を作る仕組みを説明する前に、B細胞について簡単に説明しなければならない。B細胞というのは、リンパ球という細胞の一種であり、免疫細胞とも呼ばれる。これはもともと造血細胞を起源としており、分化の果てにB細胞になるのだが、その分化過程は長くなるので別記事に譲る。

では話を戻して、マクロファージや好中球の防衛ラインを突破した細菌に対して誘導ミサイルのような抗体を作り出すB細胞。いったいどんな細胞なのだろうか。

そもそもまず断っておくと、B細胞は最初から抗体というミサイルを発射できるわけではない。周りの細胞の支援を受けて初めて抗体ミサイルを撃てるようになるのである。どういうことか説明していこう。

まず、B細胞の構造的な特徴としては、細胞膜の表面に免疫グロブリンM(IgM)という抗体を装備しているのである。(現段階ではミサイルとは違い、細胞膜にくっついているだけで、遠くの敵まで発射することが出来ない点に注意)。これは先ほど説明したとおり、ある異物に対して特異的に結合することが出来るのである。しかし、裏を返せば、それ以外の細菌には全く結合することが出来ないと言うことになる。そして外には数百万という異物が漂っているのだから一匹だけロックオンできても、他の抗原を認識できないのならば意味が無いじゃないかと思ってしまう。

だが驚くべきことに、B細胞というのはあらかじめ大量に分裂していて数百万全ての異物に対応できるだけに増殖しているのである。そして、それぞれのもてる抗体は一種類だけである。つまり、ドラクエ風に言うと、
スライムのみにくっつく抗体IgMを持つB細胞
ゴーレムのみにくっつく抗体IgMを持つB細胞
ドラゴンのみにくっつく抗体IgMを持つB細胞
というように、B細胞ごとによって認識できる敵(外来抗原)が決まっているのである。これらB細胞群が何百万種類も待機しているのだから安全安心である。

だが一つ心配になってしまうことがある。例えば、スライム抗原が侵入してきたとして、それに対応できるB細胞はいるかもしれない。だが、そのスライム抗原に対応できるB細胞は少ししかないのに、スライム抗原がどんどん入ってきたら本当にその小数のB細胞で対応しきることは可能なのだろうか。(この時は当然ゴーレム抗原やドラゴン抗原に対応できるB細胞なんて何の役にも立たないのである。スライム抗原と戦えるのはスライム抗原にくっつく抗体IgMを持つB細胞だけなのだから。)

しかし心配ご無用!!

B細胞はこれに対しも対応できる有能な細胞で、もしスライム抗原が入ってきたとしたらスライムに対応できるIgMを持った抗体を持つB細胞はそれに結合し、そのB細胞だけが選択的に増殖を始めるのである。するとみるみる数が増えて侵入してきたスライム抗原を圧倒するだけの数になるのである。このように侵入してきた敵に対応したB細胞だけが増殖することを、クローン選択説という(これはクローンのように増えたB細胞の中から敵に対応した細胞だけが選択的に増殖することからこう呼ばれる)。

ところで、マクロファージや好中球の防衛ラインを突破した異物に特異的に抗体を発射することはまだ出来ない。最初のB細胞では細胞膜に抗体がくっついているだけで直接物理的に接触しなければならない。やがてはミサイルのように抗体を発射することが出来るようになるのだが、それには現状よりレベルアップしなければならない。一体どのような過程を経てB細胞は抗体を遠くまで発射できるようになるのだろうか。実はそれにはヘルパーT細胞(T細胞の一種)という新手の細胞の力を借りる必要がある。B細胞とT細胞は人間の中においては最強のコンビのようなもの。ではいかにしてヘルパーT細胞は名前の通りB細胞をヘルプしてくれるのだろうか。


【ここまでのまとめ】

外界の異物は数え切れないほどの種類がある。しかし、ヒトのB細胞もそれと同じだけ待機していて、
それぞれの敵にどのB細胞が立ち向かうか分業している。対応できるB細胞は抗原を認識すると直ちに増殖を開始して仲間を増やす。しかしこの状態では抗体を放出する事が出来ず、それにはヘルパーT細胞の助けが必要。


T細胞の活性化メカニズム


まず、T細胞というものについて簡単に説明したい。
T細胞は免疫システム全体を助けてくれるヘルパーT細胞と侵入してきたT細胞を殺傷するキラーT細胞に分けることが出来る。B細胞と同様にT細胞はもの凄く重要な細胞で、言わば治安維持に働く警察官のような細胞なのである。これまで話してきた重要な命題「いかにしてB細胞は抗体を発射できるようになるか」というのはこのT細胞の活性化がきっかけなのである。

それではどうすればT細胞は活性化されるのだろうか。実は、他の免疫細胞の「通報」を受けてなのである。
「通報」というのは具体的にどういうことか説明しよう。今まで説明してきたB細胞というのは実は抗体を持つという特徴だけでなく、抗原を認識して取り込むことが出来るのである。そして分解して表面に晒し、「こんな敵兵倒しましたよ!敵の仲間が多分まだいますよー!気をつけてくださいー!!」と抗原の残骸を表面に提示してT細胞に「通報」するのである。これはB細胞だけでなく、マクロファージや樹状細胞という新キャラも同じように抗原を分解して表面に提示してT細胞に通報することが出来る。これらのT細胞に敵の存在を知らせてくれる細胞達のことを抗原提示細胞と呼ぶ。尚、これらの抗原提示細胞は警察官であるT細胞に信用してもらうためにMHCⅡという分子を細胞表面に持っている必要がある。
(これに深入りすると混乱するのでMHC分子に関しては別記事参照)

ところで、B細胞は無数の外敵に対応できるように数百万種類の敵に対応できる種類に色んなタイプに増殖していると述べたが、T細胞も同じように無数の敵に対応できるように増殖しているのである。

つまり、例えばB細胞からの通報(例えば細菌aの抗原提示)を受けることの出来るT細胞というのは細菌aのみにしか対応できないのである。もし細菌bを分解して通報してくるB細胞がいてもそれは細菌b専用のT細胞しか対処できないのである。これはB細胞のクローン選択説と同じ流れである。警官であるT細胞はとても頼りになるが、「一人の警官は一人の犯人しか捕まえられない」というようなことがこのT細胞の特徴と言える。そして特異的に抗原提示(通報)を受けたT細胞はB細胞と同じようにその犯人を捕まえられるタイプのT細胞だけが大量に増殖するのである。


Th2細胞がB細胞を形質細胞へ成長させる


さて、前回の続きであるが、警官であるT細胞はマクロファージ、B細胞、好中球などの通報を受けて増殖すると書いた。そして通報者である抗原提示細胞はT細胞に信頼してもらうためにMHCⅡという分子を持っている。

ただ、このMHCⅡというのを認識しているT細胞はナイーブTh細胞というまだ未熟なヘルパーT細胞なのである。


T細胞ファミリーについては下のイラスト参照。

↑の図のように、ナイーブTh細胞は通報によってTh2細胞になる。そしてこのTh2細胞はサイトカイン(IL4,IL13)という物質を放出してB細胞を形質細胞に分化させるのである。

まさにこれがB細胞が誘導ミサイルである抗体を発射できるようになる瞬間である。

具体的に何が起こるかというとクラススイッチという現象である(FFでいうとジョブチェンジみたいなもん)


つまり、今までB細胞膜にあったIgMが引っ込んで代わりに免疫グロブリンG(IgG)という別のタイプの抗体が作られるのである!これは新しく生まれ変わったB細胞、つまり形質細胞からばしばしと飛んでいって誘導弾さながら異物に結合していく(オプソニン化)。こうすると前述のように好中球(マクロファージではなくて)の貪食能力がアップし、最初の防衛ラインを突破してきた異物も撃退することが出来るのである。ちなみに、ここで好中球ややられた異物の残骸は膿となってのこるのである(化膿性炎症)。「なぜ怪我をすると膿ができるのか」という疑問に対する答えはこれである。



【ここまでのまとめ】

まず、細菌の侵入
細菌のケモカインを感知してマクロファージや好中球など貪食細胞が接近。
しかし貪食能力があまり高くないので倒せない

そこで樹状細胞、マクロファージ、B細胞が異物抗原を食べて断片を警官であるナイーブTh細胞(T細胞の一種)に通報する(特異的な抗原提示)

通報を受けたナイーブTh細胞はTh2細胞へと分化してサイトカインを放出する:IL4,IL13

Th2細胞より放出されたサイトカインでB細胞はいよいよ誘導ミサイル(抗体IgG)を発射できる形質細胞へと分化できる。(この時、抗体のタイプがIgMからIgGになることをクラススイッチという)

IgGがばしばし異物に結合することによって好中球の攻撃力(貪食能力)がアップして敵をやっつけることが出来る。そして残骸は膿として残る


ここまでは細菌への防御の説明をしてきたが、次からはウイルスへの防御機構の話をしていく。